筋肥大とトレーニングボリュームの関係:最新研究が示す効果的セット数とは
筋力トレーニングにおいてトレーニングボリューム(総練習量)は筋肥大(筋肉のサイズ増大)の重要な要因です。一般的にボリュームとは、特定の筋群に対して週あたりに行うセット数(※各セットは高い強度で行う「ハードセット」)によって定量化されます。
昔から「高強度・低ボリューム」で追い込む方法と「高ボリューム」で量をこなす方法の議論がありますが、近年の研究によって適切なボリュームの目安が明らかになりつつあります。
この記事では、最新(2023~2024年)のエビデンスをもとに筋肥大とトレーニングボリュームの関係を解説し、効果的なセット数の目安や初心者と上級者の違い、実践的なプログラムの組み方についてまとめます。
最新研究から見る筋肥大とトレーニングボリューム
近年の研究やレビューによれば、トレーニングボリュームと筋肥大には「量反応関係(dose-response)」が存在し、ある程度まではセット数を増やすほど筋肉の発達が促進されることが示されています 。
具体的には、週あたりのセット数が少なすぎる場合(例:各筋群10未満)よりも、少なくとも10セット以上行った方が筋肥大効果が大きいという報告があります ( A Systematic Review of The Effects of Different Resistance Training Volumes on Muscle Hypertrophy - PMC )。
一方で、セット数を増やし続ければ無限に効果が上がるわけではなく、一定のポイントで効果は頭打ちになることもわかってきました。
一例として、熟練トレーニーを対象に週あたり12セット・18セット・24セットの下半身トレーニングを8週間行った研究では、全グループで大腿筋の筋断面積や除脂肪体重が増加したものの、セット数間に有意な差は見られませんでした (Progressive Resistance Training Volume: Effects on Muscle Thickness, Mass, and Strength Adaptations in Resistance-Trained Individuals - PubMed)。
むしろ筋肥大率(筋厚の増加率)は12セット群(+7.7%)が最大で、24セット群(+6.1%)では若干低下する結果となっています (Progressive Resistance Training Volume: Effects on Muscle Thickness, Mass, and Strength Adaptations in Resistance-Trained Individuals - PubMed)。
この結果は「トレーニングボリュームを増やしすぎても、一定以上では筋肥大効果が頭打ちになる」可能性を示唆しています。
最新の系統的レビューやメタ分析も、上記の傾向を支持しています。たとえば2022年のメタアナリシスでは、週あたりのセット数を低ボリューム(<12セット)・中ボリューム(12~20セット)・高ボリューム(>20セット)に区分し効果を比較しています。
その結果、中ボリューム(12~20セット)と高ボリューム(20セット超)では筋肥大効果に有意差が見られず、特に大腿四頭筋や上腕二頭筋では20セットを超えても効果が頭打ちであったと報告されています ( A Systematic Review of The Effects of Different Resistance Training Volumes on Muscle Hypertrophy - PMC )。
一部の筋肉(例:上腕三頭筋)では高ボリューム群が有利というデータもありましたが 、総じて週12~20セット程度が筋肥大を最大化する目安だと結論づけられています。
このように、最新のエビデンスは「トレーニングボリュームはある程度までは多いほど良いが、20セット前後で効果は飽和する」と示唆しています。
もっとも、個人差やトレーニング経験によっても反応は異なります。2023年のある研究では、すでにトレーニング経験のある被験者において、ボリュームを増やすことと筋肥大の増加には中程度から弱い相関しかないことが示されました (Muscle Hypertrophy Responses to Changes in Training Volume: A Retrospective Analysis - PubMed)。
つまり、上級者では闇雲にセット数を増やしても思ったほど筋肥大が伸びない場合もあり、ボリューム以外の要素(強度や休養、遺伝的要因など)も関与することが示唆されます。次のセクションでは、トレーニング経験の差による最適ボリュームの違いについて詳しく見ていきます。
効果的なトレーニングボリュームの目安
上述の研究結果を踏まえ、筋肥大を目指す場合の効果的な週あたりセット数の目安はおおむね以下のとおりです。
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最低限必要なボリューム: 週あたり≈10セットが一つの基準です。メタ分析の結果では、週に9セット以下よりも10セット以上の方が筋肥大に有利とされています 。
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実際、従来の研究も週10セット以上を「筋肥大に有効な最低ライン」と示唆しています ( A Systematic Review of The Effects of Different Resistance Training Volumes on Muscle Hypertrophy - PMC )。
このため、まずは各筋群につき二桁(10セット以上)のハードセットを確保することが推奨されます。
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推奨される範囲: 週12~20セット前後が多くの人にとって効果的な範囲です 。
このレンジ内であれば、セット数を増やすほど筋肥大刺激が高まります。ただし個人差もあるため、レンジの下限から開始し、必要に応じて上限近くまで増やすとよいでしょう。中級者以上で筋肥大を最大化したい場合、15~20セット程度を目標にするケースも多いです。
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過剰なボリューム: 週20セットを大きく超える超高ボリュームは一般的には推奨されません。研究では20セットを超えても筋肥大効果に大差がなかったため ( A Systematic Review of The Effects of Different Resistance Training Volumes on Muscle Hypertrophy - PMC )、無理に30セット、40セットと増やすよりも質の高いセットを確保する方が効率的です。
セット数を増やしすぎると回復が追いつかずオーバートレーニングになるリスクもあります。また、一度のワークアウトで極端に多くのセットをこなすと後半のセットの質が低下するため、いわゆる「ジャンクボリューム」(効果の薄い余分なセット)になりかねません。
上記はあくまで一般的な指標であり、最適なボリュームはトレーニング経験や個人の回復能力によって変わります。次に、初心者と上級者それぞれに適したボリュームについて具体的に解説します。
初心者と上級者で異なる最適ボリューム
トレーニング経験の浅い初心者と、経験豊富な上級者とでは、適切なトレーニングボリュームが異なる場合があります。これは筋肉の感受性や回復能力、適応の度合いの違いによるものです。
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初心者の場合: 筋トレ初心者や再開したばかりの人は、比較的低めのボリュームでも十分筋肥大が得られます。
筋トレに体が慣れていないため、少ない刺激量でも大きな適応が起こるからです。例えばACSM(米国スポーツ医学会)のガイドラインでは、初心者に対し「1種目あたり1~3セット程度(8~12回反復)」から始めることを推奨しています。
実際、週あたり5~10セット程度でも初心者にとっては効果的であり、最初の数ヶ月はこの範囲で筋力・筋量とも著しく向上するでしょう。むしろセット数を増やしすぎると筋肉痛が強くなりすぎたりフォームが乱れたりするため、最初は控えめなボリュームから開始することが重要です。
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中級~上級者の場合: トレーニングを積み重ね筋力が向上してくると、筋肉が刺激に慣れるためより高いボリュームが必要になる傾向があります ( Maximizing Muscle Hypertrophy: A Systematic Review of Advanced Resistance Training Techniques and Methods - PMC )。
上級者では1種目あたり3~6セット、週あたり15セット以上をこなすことも珍しくありません。
実際、研究の多くはトレーニング経験1年以上の被験者を対象としており、12~20セット程度を行ってようやく最大限の筋肥大効果が得られると報告しています ( A Systematic Review of The Effects of Different Resistance Training Volumes on Muscle Hypertrophy - PMC )。
一方で前述のとおり、上級者がそれ以上セット数を増やしても効果は頭打ちになりやすく、逆に疲労が蓄積してパフォーマンス低下を招く可能性もあります。
上級者ほど自分の「適量」(各個人にとっての最適ボリューム)を見極め、賢くボリュームを調整する必要があります。
例えばセット数を増やしても筋肉痛や疲労が抜けず記録が停滞するようなら、それ以上ボリュームを増やすより質(強度やフォーム)を高めたり十分な休養を挟んだりする方が効果的でしょう。
要約すると、初心者は低~中程度のボリューム(週5~10セット前後)でも大きな成果が得られ、上級者は中~高ボリューム(週10~20セット以上)を駆使して微細な伸びを積み重ねるイメージです。
ただし個人差があるため、すべての人に当てはまる明確な線引きはありません。各自が自分の反応を観察しつつ、ボリュームを段階的に調整していくことが大切です。
ボリューム調整のための実践的アドバイス
最後に、効果的にトレーニングボリュームを設定・調整するための実践的なポイントをまとめます。以下のアドバイスを参考に、自身のトレーニングプログラムを最適化してみましょう。
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頻度と分割: 同じ筋群に対して週に2~3回の頻度でトレーニングすることを検討しましょう。例えば週15セット行いたい場合、1回で15セット詰め込むよりも週3回×5セットのように分散した方が各セットの質を保ちやすく、筋肥大刺激も効果的に得られます(1回のセッションあたり5~10セット程度が目安)。頻度を上げてボリュームを分割することで、各回に十分な強度で取り組める利点があります。
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ボリュームの初期設定: 前述のように、初心者であれば各筋群週5~10セット前後から始め、まずフォーム習得と筋肉の慣れに注力します。中級者以上は週10~15セット程度を出発点に、筋肉の反応や疲労度を見ながら調整しましょう。最初から上限いっぱいまで行う必要はなく、最小限のセット数で最大効果を狙う方が合理的です。
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段階的な増加: 筋肥大が停滞してきたり、トレーニングに慣れて物足りなさを感じたりしたら、徐々にセット数を増やすことを検討します。一度に大幅に増やすのではなく、各筋群あたり週2~3セット程度追加し、数週間様子を見る方法がおすすめです。こうしたプログレッシブオーバーロード(漸進的過負荷)により、身体を適応させながら筋肥大刺激を高めていきます。
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疲労と回復のモニタリング: 常に自身の疲労度や回復状況をチェックしましょう。睡眠状態や筋肉痛の度合い、トレーニング中の集中力・挙上重量の変化などを観察します。もし明らかに疲労が蓄積しパフォーマンスが低下している場合は、ボリュームを減らすか休養(デロード)を入れるサインです。適切な休息を挟むことで、筋肉は超回復し次のボリュームに耐えうるようになります。
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質の確保: ボリュームを増やす際は、各セットの**質(強度とフォーム)**が疎かにならないよう注意が必要です。ただ数をこなすのではなく、毎セットを限界近くまでしっかり追い込むことが筋肥大刺激には重要 です。
扱う重量やフォームが維持できなくなってきたら、それ以上セットを追加する前に一度クオリティを見直しましょう。質と量のバランスを取ることが、長期的な筋肥大には不可欠です。
以上のポイントを踏まえて、自分に合ったトレーニングボリュームを探っていきましょう。最適なセット数は人それぞれですが、エビデンスに基づく目安を参考にしつつ試行錯誤することで、効率よく筋肥大を達成できるはずです。研究が示す原則と自身の経験を組み合わせ、無理のない範囲でボリュームを調整しながら継続することが、理想の身体づくりへの近道となるでしょう。
参考文献: ( A Systematic Review of The Effects of Different Resistance Training Volumes on Muscle Hypertrophy - PMC ) ( A Systematic Review of The Effects of Different Resistance Training Volumes on Muscle Hypertrophy - PMC ) (Muscle Hypertrophy Responses to Changes in Training Volume: A Retrospective Analysis - PubMed) ( Maximizing Muscle Hypertrophy: A Systematic Review of Advanced Resistance Training Techniques and Methods - PMC )。