プロバイオティクスとは?筋肉成長との関連背景

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2025.05.01

筋トレ

プロバイオティクスとは?筋肉成長との関連背景

プロバイオティクスとは?筋肉成長との関連背景

プロバイオティクスとは?筋肉成長との関連背景

プロバイオティクスは「生きた微生物を適量摂取することで宿主に有益な効果をもたらす」食品成分のことです。

伝統的には腸内環境の改善や免疫調整への効果が知られていますが、近年では腸-筋軸(gut-muscle axis)の概念から、筋肉成長との関連も注目されています 。

腸内細菌叢を整えることで、炎症が抑制され、栄養素やアミノ酸の代謝効率が高まることが想定されており、筋肥大にも好影響をもたらす可能性が指摘されています。

筋腸軸(gut–muscle axis)の概念

腸-筋軸とは、腸内細菌叢と骨格筋代謝が相互に影響し合う生理学的概念です 。

例えば、腸内細菌は短鎖脂肪酸(SCFA)や二次胆汁酸などの代謝物を産生し、これらはGLP-1やPYYなどの腸管ホルモンを介してインスリン分泌を促進します。結果として、筋細胞ではGLUT4によるグルコース取り込みやmTORシグナルが活性化され、筋タンパク合成が促進されると考えられています 。

また、腸内細菌は慢性炎症を緩和し、アミノ酸の全身利用効率を高める役割もあり、サルコペニア予防やアナボリック耐性克服のターゲットとして期待されています。

主要な研究事例とその結果

  • Jägerら (2020) は20gの植物性タンパク(エンドウ豆由来)に対し、乳酸菌2株(L. paracasei LP-DG/LPC-S01)を併用したところ、血中の分岐鎖アミノ酸(BCAA)や必須アミノ酸(EAA)のAUCがそれぞれ+22.8%、+16.0%と大幅に増加したと報告しています。

特にロイシン、イソロイシン、バリンが約+21~+26%上昇し、植物性タンパク質でもアミノ酸利用効率が改善する可能性を示しました ( Probiotic Administration Increases Amino Acid Absorption from Plant Protein: a Placebo-Controlled, Randomized, Double-Blind, Multicenter, Crossover Study - PMC )

  • Huangら (2019) の試験では、健常若年成人においてL. plantarum TWK10(1日9×10^10CFU)を6週間摂取すると、対照群に比べて体脂肪の減少と筋肉量の有意な増加が認められました。

高用量群では有意に筋肉量が増加し、筋持久力指標も改善したと報告されています ( Effect of Lactobacillus plantarum TWK10 on Exercise Physiological Adaptation, Performance, and Body Composition in Healthy Humans - PMC )

  • Leeら (2021) は高齢のフレイル高齢者(軽度の体力低下群)に、1日6×10^10CFUのTWK10を18週間投与したところ、対照群に比べて相対筋肉量が約1.03倍(約3%増)に増加したと報告しています 。

6~18週目にかけて筋肉量が段階的に増加し、プラセボ群では脂肪増加が見られたのに対し、TWK10群ではそれが抑制されました  (Lactobacillus plantarum TWK10 Improves Muscle Mass and Functional Performance in Frail Older Adults: A Randomized, Double-Blind Clinical Trial)

  • PL-02(Leeら 2021, マウス研究):人間のアスリート由来のL. plantarum PL-02菌株をマウスに4週間投与したところ、筋肉量・筋力・持久力が。

本研究は動物実験ですが、プロバイオティクスのスポーツパフォーマンス改善への可能性を示すものです。

  • その他、Bacillus coagulans GBI-30(Steckerら 2020)などの菌株も、タンパク質由来アミノ酸吸収の向上や筋損傷からの回復促進が報告されています(詳しい結果は後述)。

プロバイオティクスの生理学的メカニズム

プロバイオティクスが筋肥大に寄与すると考えられるメカニズムは多岐にわたります。主なものを以下に示します:

  • 炎症抑制:運動や老化で生じる低グレード炎症(炎症性サイトカインの増加)を腸内細菌が緩和し、筋肉組織への炎症悪化を防ぐことで、筋同化環境を改善すると考えられています。

特に、プロバイオティクス由来のSCFAはNF-κB経路を抑制し、抗炎症作用を発揮する報告があります ( Gut microbes and muscle function: can probiotics make our muscles stronger? - PMC )

  • 短鎖脂肪酸(SCFA)の作用:プロバイオティクスは酪酸・酢酸・プロピオン酸などのSCFAを産生します。これらは腸管L細胞からGLP-1やPYYを分泌させ、インスリン分泌と全身のインスリン感受性を高めます。

筋細胞ではSCFA(特に酢酸)がAMPKやPPARδ/αを活性化し、GLUT4によるグルコース取り込みを増大させます。さらにSCFAはmTOR経路を介してタンパク質合成を促進し、同時にFOXO経路やオートファジーを抑制してタンパク分解を減少させます 。

SCFAは筋肉レベルでエネルギー代謝を改善し、筋肥大シグナルを強化します 。

腸内細菌由来のSCFAや二次胆汁酸は、腸管ホルモン(GLP-1, PYY)を介してインスリン応答を向上させ、筋細胞内のAMPKやmTORシグナルを活性化することで、筋タンパク合成を促進すると考えられている。

  • アミノ酸吸収の向上:前述のJägerらの研究のように、特定の乳酸菌をプロテインと同時摂取すると、腸管でのタンパク質消化酵素活性が増大し、必須アミノ酸(特にBCAA)の血中吸収量が約20%~26%向上しました。

これにより、筋肉合成に必要なアミノ酸供給が効率化され、食事タンパク質量を増やさずとも筋合成促進効果が得られる可能性があります。

  • その他の作用:プロバイオティクスは腸管バリア機能を改善し、リポ多糖(LPS)の血中漏出を防いで全身炎症を低減させます。また、エクソソームやホルモン調節を介して筋肉にシグナルを送る可能性も示唆されています。これらの作用により、筋肉細胞の分化や増殖環境が整えられ、筋肥大に好影響をもたらすと考えられます 。

筋肥大促進におけるプロバイオティクスの活用方法

  • 推奨菌株:臨床研究で筋肥大効果が報告されている菌株として、Lactiplantibacillus plantarum TWK10、L. plantarum PS128、L. paracasei LP-DG/LPC-S01、Bacillus coagulans GBI-30などが挙げられます 。

これらの菌株は蛋白質代謝や筋機能改善との関連が示唆されています。

  • 摂取タイミング・量:多くの研究では1日あたり10^9~10^11 CFU(コロニー形成単位)の用量が使用されています。特にタンパク質食(プロテインパウダーや食事)と同時に摂ることで、アミノ酸吸収の向上効果が期待できます。

一般的には、朝食やトレーニング後など食事のタイミングで継続的に摂取するのが望ましいと考えられます。

  • 継続期間:臨床試験では4~12週間以上の継続摂取で有意な効果が認められており、効果は投与期間に依存するとみられます。短期間では効果が出にくい場合もあるため、中長期的に継続することが重要です。

トレーナーへのアドバイス・注意点

プロバイオティクスはあくまで筋肥大促進の補助的要素であり、十分なタンパク質摂取や適切なトレーニングが基本であることを強調すべきです。以下のポイントをクライアントに伝えましょう:

  • 品質の確認:効果が証明された菌株か、CFU量や保存性など製品の品質を必ず確認してください。成分表示に菌の属・種・株名とCFUが明記されている製品を選ぶことが重要です。

  • 個人差への配慮:腸内環境や体質には個人差が大きく、一部では摂取後に膨満感やガスを感じることもあります。過度な効果過大期待は禁物で、必要に応じて医師や栄養士と連携しましょう。

  • 総合的な食事管理:プロバイオティクスだけに頼るのではなく、食物繊維や多様な栄養素を含むバランスの良い食事を通じて腸内環境を整えることも大切です。特にプレバイオティクス(オリゴ糖、食物繊維など)も摂取することでプロバイオティクスの効果を高められます。

  • 安全性:一般にプロバイオティクスは安全性が高いですが、免疫抑制状態のクライアントや重篤な疾患を抱える場合は注意が必要です。添加物や糖分の含有量なども確認し、推奨量を守るよう指導してください。

まとめ

最新の臨床研究から、適切に選択・摂取されたプロバイオティクスは筋タンパク合成に必要なアミノ酸供給やホルモンシグナル、炎症制御を通じて筋肥大をサポートする可能性が示されています 。

プロバイオティクスの利用は栄養戦略の一部として有効ですが、まずは食事内容やトレーニングプログラムの充実が最優先です。

トレーナーはエビデンスに基づいて最適な菌株と摂取法を選び、クライアントに正しい情報を提供することで、安全かつ効果的にプロバイオティクス活用を促しましょう。

参考文献