筋タンパク合成のピークと持続時間
レジスタンストレーニング(抵抗運動)を行うと筋タンパク合成(MPS)が急激に増加し、その後も長時間にわたって高い状態が続くことが知られています。
実際、前向き研究では「トレーニング1回でMPSは約24~48時間増加する」ことが報告されています。
例えば MacDougallら(1995)の研究では、肘屈曲運動後のMPSは運動4時間後で約50%増、24時間後で約109%増加し、その後36時間でほぼ基準(運動していない腕)と同程度まで低下したとされています。
一方、Phillipsら(1997)は大腿筋群で測定し、運動後3時間で約112%(基準比212%)、24時間で約65%(同165%)、48時間で約34%上昇しており、48時間後でも基準を上回っていました。
すなわち、運動後のMPSは数時間以内に急増し(ピークは研究条件により3~24時間の範囲で観察される)、その後24~48時間かけて漸減する傾向があります。
以下に運動後の経過時間とMPSの変化、および食事(プロテイン)摂取による影響をまとめます。
運動後の時間 | MPS (基準比) | 食事・栄養摂取の効果(例) |
---|---|---|
約3時間後 | +112%(Phillips97) MPSが急増する時期 | 運動直後のたんぱく質摂取でさらにMPS上乗せ |
約24時間後 | +65%~+109%(ピーク期) | 24時間以内ならいつ摂取しても相乗的にMPS増加 |
約36~48時間後 | +14%~+34%(減衰期) | 十分量の連続摂取(例: 大容量プロテイン)でMPS持続延長可能 |
上表のように、トレーニング直後から数時間後にMPSは最大近くまで高まり、その後24時間でピーク(文献によりピーク時刻は異なる)を迎え、36〜48時間で基準値に近づきます。
特にMacDougallらでは24時間後にMPSが約2倍に達し、36時間で通常レベルまで戻ったことが示されています。Phillipsらでも48時間後まで有意なプラス状態が観察されており、運動によるMPSの増加は少なくとも1~2日続くことが示唆されています。
栄養(特にタンパク質)摂取による影響
トレーニング後の栄養摂取はMPSをさらに高め、持続時間にも影響します。
運動後のアミノ酸供給は運動単独の効果と相乗的にMPSを促進し、筋タンパクの純増加につながることが古典的研究でも示されています。
Athertonら(2012)によれば、通常の食事でのアミノ酸供給によるMPS上昇は「約1.5時間で飽和(muscle-full)」してしまいますが、運動を行うとこの飽和は24時間以上遅延し、より長くMPSが高い状態を維持できるようになります。
言い換えれば、抵抗運動後に摂取した栄養は、運動直前・直後に限らず、トレーニング後の日中であればどのタイミングでも筋たんぱくの合成を促進しやすい状態が続いているのです。
また、摂取するたんぱく質の量と質も重要です。一般的に1食あたり20~30g程度の良質なたんぱく質(特にロイシンを含む)がMPSを最大化する目安とされますが、Trommelenら(2023)は100gのたんぱく質摂取では25g摂取に比べて12時間以上にわたりより大きく持続的な筋合成効果が得られることを報告しています。
これは、アミノ酸が長時間大量に供給されることでMPSの増加量と持続時間が増大することを示唆しています。
Frontiers誌のレビューでも、運動後の回復期には体重1kgあたり約0.31g(約20~25g)程度のたんぱく質摂取がMPS最大化の目安とされ、3時間おきに20gずつ摂ると12時間後まで最も高い合成率が維持できるとされています。
つまり、1日4~5回に分けて適量のタンパク質を摂ることが、トレーニング後の筋リモデリングに有効と言えます。
逆に「ゴールデンタイム(運動後30~60分以内に摂るべき)」という固定観念は過度です。
むしろ、筋タンパク合成は運動後1~2日持続して高い状態が続くため、24時間以内であればプロテイン摂取による恩恵は得られます。
実際、Wirthらのシステマティックレビューでは「運動直後の摂取が最も効果的だが、運動後24時間以内の摂取でも有意な相乗効果が認められる」と報告されています。
さらに、就寝前のプロテイン摂取も運動後の夜間MPSを刺激し、全体の合成時間を延長できるという研究もあります。
まとめと実践的ポイント
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MPSは運動後24~48時間持続:抵抗運動によりMPSは上昇し、その後1~2日間は基準値以上を維持します。ピークは数時間~24時間後に見られます。
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トレーニング+タンパク質で相乗効果:運動後の栄養(特にタンパク質)摂取はMPSをより高めます。運動による合成増加と食事効果は「足し算以上」の効果を生み、トレーニング後24時間以上でもタンパク質摂取は有効です。
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タンパク質摂取の量とタイミング:1回あたり約20~30gの良質タンパク質を複数回に分けて(例:3時間おき)摂取するのがMPS最大化に適しています。即時摂取にこだわりすぎず、1日を通して総量を確保することが重要です。
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ビジュアル:経時的MPSの推移(上表参照)では、トレーニング後から48時間にかけてMPSが高い状態にあることと、タンパク質摂取でその高さが増強・持続可能である様子を示しています。
これらの知見から、レジスタンストレーニング後は少なくとも24時間以上にわたり高タンパク質食を心がけ、できれば毎食十分なタンパク質を摂ることで筋タンパク合成の恩恵を最大化できます。効果的なトレーニング計画には「運動直後の数分」ではなく、“トレーニング後1~2日間”を意識した継続的な栄養サポートが鍵となります。