筋トレと睡眠の関係性とは

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2025.03.28

筋トレ

筋トレと睡眠の関係性とは

筋トレと睡眠の関係性とは

本日は筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)と睡眠の関係について、最新の科学的知見に基づき以下の観点から解説します。

(1) 筋肉の成長における睡眠の役割

(2) 睡眠の質がトレーニング効果に与える影響

(3) トレーニングが睡眠に与える影響、の順に解説します。

1. 筋肉の成長における睡眠の役割

筋肉の発達や修復には休息、とりわけ睡眠が不可欠です。睡眠中でも特に深いノンレム睡眠(徐波睡眠, SWS)の段階で成長ホルモン(hGH)の分泌がピークに達します ( Sleep and muscle recovery – Current concepts and empirical evidence | Current Issues in Sport Science (CISS) )。成長ホルモンはタンパク質の合成を促進し、筋組織の修復・成長を助ける重要な同化ホルモンです。実際、「寝入り直後の深い睡眠中に成長ホルモンが大量に放出される」ことが観察されており ( Sleep and muscle recovery – Current concepts and empirical evidence | Current Issues in Sport Science (CISS) )、このホルモン分泌が筋肉の成長メカニズムの一端を担っています。

さらに睡眠中は、体が安静状態になることで筋タンパク質の合成(MPS: Muscle Protein Synthesis)が促進され、トレーニングで傷ついた筋繊維の修復が進みます。十分な睡眠が取れないと、こうした筋肉の合成プロセスが阻害されてしまいます。実験的な研究では、一晩の徹夜(完全睡眠不足)をするだけで筋タンパク質の合成率が約18%低下し、同時にカタボリック(分解)ホルモンであるコルチゾールの血中濃度が21%上昇、アナボリック(同化)ホルモンであるテストステロンが24%減少したと報告されています ( The effect of acute sleep deprivation on skeletal muscle protein synthesis and the hormonal environment - PMC )。たった一晩の睡眠不足で筋肉の合成が鈍り、ホルモンバランスが筋分解優位の状態(筋肉を分解しやすい環境)になることが示されており、慢性的な睡眠不足が続けば筋肉の成長が著しく妨げられることが懸念されます ( The effect of acute sleep deprivation on skeletal muscle protein synthesis and the hormonal environment - PMC ) ( Sleep and muscle recovery – Current concepts and empirical evidence | Current Issues in Sport Science (CISS) )。

このように、睡眠は筋肉の成長を促進する“隠れた促進剤”と言えます。良質な睡眠中には成長ホルモンなどの筋肥大に関与するホルモンが活発に分泌され、筋タンパク質の合成(同化作用)を高めます。一方で睡眠不足になると、筋タンパク質の分解(異化作用)が亢進しやすくなり、長期的には筋肉量の減少(筋萎縮)につながる可能性があります ( Sleep and muscle recovery – Current concepts and empirical evidence | Current Issues in Sport Science (CISS) )。例えば動物実験ですが、パラドックス睡眠(REM睡眠)の剥奪によって骨格筋の萎縮が起きたとの報告もあり ( Sleep and muscle recovery – Current concepts and empirical evidence | Current Issues in Sport Science (CISS) )、睡眠が筋組織の維持に重要であることが示唆されています。

ポイント:筋トレによる筋損傷からの回復・筋肥大を最大化するには、トレーニング後に十分な睡眠をとり、成長ホルモン分泌やタンパク質合成がしっかり行われる環境を整えることが重要です。

2. 睡眠の質がトレーニング効果に与える影響

睡眠の質や睡眠時間は、筋トレの効果(筋肥大の度合いやパフォーマンス向上)に大きな影響を及ぼします。まず筋肥大に関して、睡眠が不足していると前述のように筋タンパク質合成が低下するため、筋肉の成長効率が落ちる可能性があります ( The effect of acute sleep deprivation on skeletal muscle protein synthesis and the hormonal environment - PMC )。逆に言えば、睡眠の質を高め十分な睡眠時間を確保することが筋肥大を最大化する上で重要です。

実際の研究でも、慢性的な睡眠不足や質の低下が筋肉量の維持・向上を妨げることが示唆されています。例えば大規模調査によると、睡眠の質が悪かったり睡眠時間が短かったりする人ほど筋肉量が減少しやすい傾向が報告されています (Effect of changes in sleeping behavior on skeletal muscle and fat mass: a retrospective cohort study | BMC Public Health | Full Text) ( Relationship between sleep and muscle strength among Chinese university students: a cross-sectional study - PMC )。日本人を含む大学生1万人以上を対象とした研究では、自己申告で「睡眠の質が良い」群の方が筋力(握力)も有意に高く、特に男性では睡眠時間が6時間未満の群は7~8時間睡眠の群より筋力が低いことが確認されました ( Relationship between sleep and muscle strength among Chinese university students: a cross-sectional study - PMC )。この結果から筆者らは、「良質な睡眠は筋力の維持・向上にプラスに働き、逆に短時間睡眠は筋力低下のリスク要因となりうる」と結論付けています ( Relationship between sleep and muscle strength among Chinese university students: a cross-sectional study - PMC )。

パフォーマンス面でも、睡眠不足はトレーニングのパフォーマンスや成果を損なうことが知られています。系統的レビュー研究では、一晩徹夜程度の短期的な睡眠不足では必ずしも筋力低下は顕著でないものの、何夜も連続して睡眠時間を制限すると複数の筋群を使う複合的なエクササイズ(いわゆるコンパウンド種目:スクワットなど)の最大筋力発揮が有意に低下することが示されました (Inadequate sleep and muscle strength: Implications for resistance training - PubMed)。つまり慢性的な寝不足は高強度の筋トレにおけるパフォーマンスを落とし、結果的にトレーニング効果(筋力・筋肥大の向上幅)を減じてしまう恐れがあります (Inadequate sleep and muscle strength: Implications for resistance training - PubMed)。ホルモン面への影響も指摘されており、睡眠不足時はトレーニング後のテストステロンや成長ホルモンの反応が鈍るなど、筋肥大に不利な内分泌環境になるとの報告もあります ( The effect of acute sleep deprivation on skeletal muscle protein synthesis and the hormonal environment - PMC )。

一方で、十分な睡眠を取ることはトレーニング効果を高める強力な手段にもなり得ます。興味深い例として、スタンフォード大学のバスケットボール選手を対象にした実験では、日頃より意識的に睡眠時間を延長(目標1日10時間の就寝)させる介入を数週間行ったところ、スプリント走のタイムが向上し、フリースローや3ポイントシュートの成功率が約9%も改善しました ( The Effects of Sleep Extension on the Athletic Performance of Collegiate Basketball Players - PMC )。被験者たちは日中の眠気や疲労感の軽減も報告しており、睡眠をしっかり確保することで筋力・パワーや運動技能が向上しうることが示されています ( The Effects of Sleep Extension on the Athletic Performance of Collegiate Basketball Players - PMC ) ( The Effects of Sleep Extension on the Athletic Performance of Collegiate Basketball Players - PMC )。また、別の研究では夜ごとの睡眠時間を十分に取ったアスリートのほうが、睡眠不足のアスリートよりも反応時間や持久的パフォーマンスが良好になる傾向も報告されています ( The Effect of Physical Activity on Sleep Quality and Sleep Disorder: A Systematic Review - PMC )。

さらにボディメイクや減量の観点でも、睡眠は重要です。例えば減量中に睡眠時間を削ると、同じ体重減でも筋肉の減少量が増え、脂肪の減少量が減るという報告があります (Insufficient Sleep Undermines Dietary Efforts to Reduce Adiposity)。これは筋トレ愛好者にとって望ましくない体組成変化です。総じて、睡眠不足の状態では筋肥大もしづらく、筋力向上も頭打ちになりやすいため、トレーニング成果を最大化するには睡眠の質・量を確保することが科学的にも推奨されます。

ポイント:トレーニング効果を高めたいなら、「トレーニング・栄養・休養」の三本柱の一つである睡眠をおろそかにしないことが肝要です。睡眠の質を改善し十分に眠ることで、筋肉の修復と成長が促され、トレーニングで得られる筋力・筋肥大効果や運動パフォーマンスの向上幅が大きくなります。

3. トレーニング(運動)が睡眠に与える影響

逆の関係として、定期的な運動習慣は睡眠の質を高めることが数多くの研究で示されています。身体を動かすことで適度な疲労が生じ、夜間の入眠がスムーズになるほか、睡眠中の深い眠り(徐波睡眠)が増加する傾向があります。古典的な研究ですが、日中に激しい運動を行った翌晩には徐波睡眠(深睡眠)の割合が増加したとの報告があり ( Sleep and muscle recovery – Current concepts and empirical evidence | Current Issues in Sport Science (CISS) )、運動によって睡眠がより深くなる「回復モード」が強まることが示唆されています。また、レジスタンス運動(筋トレ)は睡眠の質を特に高める可能性が指摘されています。2017年にマクマスター大学の研究グループが発表したメタアナリシス(13件のランダム化比較試験の統合解析)によれば、筋力トレーニングの継続は睡眠のあらゆる側面を改善し、中でも睡眠の質に対する効果が顕著だったといいます (The effect of resistance exercise on sleep: A systematic review of randomized controlled trials - PubMed)。興味深いことに、その効果は有酸素運動と筋トレを組み合わせた場合よりも筋トレ単独で行った場合のほうが大きかったと報告されています (The effect of resistance exercise on sleep: A systematic review of randomized controlled trials - PubMed)。これは最近の予備的研究(米国アイオワ州立大の発表)とも一致しており、「筋トレは有酸素運動以上に睡眠を深く・質を高める効果があるかもしれない」とする知見も出てきています (もっとぐっすり眠りたい? そんな人に筋トレのすすめ 米新研究 - CNN.co.jp)。

具体的な効果として、運動習慣を持つ人は寝つきが良くなる(入眠潜時の短縮)深く眠れる(徐波睡眠や睡眠効率の向上)、そして夜中に目覚めにくくなることが報告されています ( The Effect of Physical Activity on Sleep Quality and Sleep Disorder: A Systematic Review - PMC )。ある総説論文の結論でも、「定期的な身体活動は睡眠の質を改善し、入眠までの時間を減らし、全般的な睡眠の質を高める」とまとめられています ( The Effect of Physical Activity on Sleep Quality and Sleep Disorder: A Systematic Review - PMC )。加えて、適度な運動は不眠症の改善にも有効であるとされ、薬に頼らない睡眠改善策として推奨される場合があります ( The Effect of Physical Activity on Sleep Quality and Sleep Disorder: A Systematic Review - PMC )。運動によるストレス解消や不安・抑うつ症状の軽減も睡眠改善に寄与する要因です。筋トレを含むレジスタンストレーニングはメンタルヘルスの向上効果も報告されており、不安感や抑うつの軽減を通じて結果的に睡眠の質が上がると考えられています (The effect of resistance exercise on sleep: A systematic review of randomized controlled trials - PubMed)。

ただし、運動の強度や時間帯によって睡眠への影響は変わり得ます。一般に適度な強度の運動であれば睡眠を促進しますが、就寝直前の激しすぎる運動は交感神経を過度に刺激してしまい、かえって寝つきを悪くする可能性があります ( The Effect of Physical Activity on Sleep Quality and Sleep Disorder: A Systematic Review - PMC )。実際、「高強度の身体活動を夜遅くに行うと入眠の妨げになる」との指摘もあり ( The Effect of Physical Activity on Sleep Quality and Sleep Disorder: A Systematic Review - PMC )、運動は就寝2~3時間前までに済ませることが望ましいとされています。一方で夕方~夜の適度な運動(例えば軽い筋トレやストレッチ程度)であれば、体温の自然な低下を促してかえって入眠を助けるケースもあります。要は運動のタイミングと強度を工夫することで、睡眠をより良いものにすることが可能です。

総合すると、筋トレを含む定期的な運動は良質な睡眠をもたらし、良質な睡眠が筋トレ効果を高めるという好循環が成り立ちます。ある研究者は「習慣的にトレーニングを行うことによって睡眠の質を高めることが示唆された」と述べています (日本人にこそ一生涯の筋トレが必要なワケ どんな脅威でも心身を守ってくれる (2ページ目) | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン))。睡眠と筋トレはお互いを補完し合う関係であり、一方がおろそかになると他方の効果も十分に発揮されません。したがって、筋力向上や筋肥大を目指す人はトレーニングだけでなく睡眠を含めた生活リズムにも気を配ることが重要です。

ポイント:運動習慣は「最高の睡眠薬」と言えるほど睡眠の質を高めます。筋トレ直後は交感神経が興奮状態になりますが、適切にクールダウンし就寝時間を迎えれば、その夜は以前より深く質の高い睡眠が得られるでしょう。そして十分に回復した体で翌日のトレーニング効果も向上する、という理想的なサイクルが生まれます。

参考文献・情報源

 

( Sleep and muscle recovery – Current concepts and empirical evidence | Current Issues in Sport Science (CISS) ) ( The effect of acute sleep deprivation on skeletal muscle protein synthesis and the hormonal environment - PMC ) ( Sleep and muscle recovery – Current concepts and empirical evidence | Current Issues in Sport Science (CISS) ) ( Sleep and muscle recovery – Current concepts and empirical evidence | Current Issues in Sport Science (CISS) ) (Effect of changes in sleeping behavior on skeletal muscle and fat mass: a retrospective cohort study | BMC Public Health | Full Text) ( Relationship between sleep and muscle strength among Chinese university students: a cross-sectional study - PMC ) (Inadequate sleep and muscle strength: Implications for resistance training - PubMed) ( The Effects of Sleep Extension on the Athletic Performance of Collegiate Basketball Players - PMC ) (The effect of resistance exercise on sleep: A systematic review of randomized controlled trials - PubMed)