加圧トレーニングの科学的検証:その効果とメリット・デメリット、そしてブームの行方

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2025.04.26

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加圧トレーニングの科学的検証:その効果とメリット・デメリット、そしてブームの行方

加圧トレーニングの科学的検証:その効果とメリット・デメリット、そしてブームの行方

加圧トレーニングの科学的検証:その効果とメリット・デメリット、そしてブームの行方

最近、SNSや雑誌で「短時間で効果が出る」と取り上げられる加圧トレーニングですが、実際どのような効果があるのでしょうか?

加圧トレーニング(KAATSU)は、専用のベルトで腕や脚の付け根を適度に圧迫し血流を制限しながら低強度の運動を行うユニークなトレーニング方法です 。

本来は高重量が必要な筋力トレーニング効果を、軽い負荷でも引き出せる可能性があるとして一時期大きな注目を集めました。

また、「筋肥大やダイエット、アンチエイジングに効果的」「短時間で成果が出る」といった触れ込みでブームにもなりました。

しかし現在ではブームも落ち着き、その実際の有効性や限界について冷静に検証されるようになっています。

本記事では、科学的な研究データやエビデンスに基づき、加圧トレーニングの効果(筋肥大・ダイエット・アンチエイジング)や対象者別(高齢者・アスリート・女性)の視点からの利点と課題、さらにメリット・デメリットの比較や通常のトレーニングとの違いについて整理します。最後に、かつての加圧トレーニングブームがなぜ衰退したのか、その背景と理由についても考察します。

効果の種類:筋肥大・ダイエット・アンチエイジング

加圧トレーニングは当初、筋肉を大きくしたり脂肪を減らしたりといった幅広い効果が期待されていました。本当にそのような効果が得られるのか、各項目ごとに見ていきましょう。

筋肥大(筋力向上)への効果

加圧トレーニング最大の目的は筋力・筋肉量の向上です。実際、研究により低負荷+加圧でも筋肥大効果が得られることが示されています。例えば、20~50%1RM程度の軽い負荷で血流を制限するトレーニング(BFRトレーニング)は、70%以上1RMの高負荷トレーニングと同等に骨格筋量を増加させうることが報告されています (Effects of blood-flow restricted exercise versus conventional resistance training in musculoskeletal disorders—a systematic review and meta-analysis | BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation | Full Text)

筋力面でも、高負荷には劣るものの有意な向上が見られます。

実際、日本国内の調査でも利用者の77%で筋肥大が認められたとの報告があります 。

加圧ベルトで血流を制限すると軽い重量でも筋肉内に乳酸など代謝物が蓄積し、それが成長ホルモン分泌を促してタンパク質合成を高めるなど、筋肥大を促進する仕組みが働くと考えられています。

実際、低強度の加圧トレーニング直後には成長ホルモン(GH)が安静時の数百倍(最大290倍)にも急増するとの報告もあります (The Influence of Interval Training Combined with Occlusion and Cooling on Selected Indicators of Blood, Muscle Metabolism and Oxidative Stress)

このように、加圧トレーニングは従来の重量挙上ほど関節に負担をかけずに筋肉を大きく強くする効果が科学的にも確認されています。

もっとも、後述するように高負荷の従来型トレーニングの方が筋肥大・筋力向上効果が大きいケースもあります 。

したがって加圧トレーニングは「重い重量を扱えない場合の代替策」「リハビリや補助的な筋肥大手段」と位置づけるのが適切であり、「これだけで通常の筋トレ以上の効果が得られる」という過度な期待は禁物です。

ダイエット(減量)への効果

加圧トレーニングはダイエット(減量)効果も期待されています。

血流制限により運動時の代謝が高まり、脂肪燃焼やエネルギー消費が促進される可能性があるからです。

実際、全国の加圧施設の調査では利用者の73%で体重減少(ダイエット)効果があったと報告されています。

メカニズムの一つとして、前述の成長ホルモンの大量分泌があります。成長ホルモンには筋タンパク合成促進と同時に脂肪分解を促す作用もあり、加圧による成長ホルモン増加が脂肪燃焼を助ける可能性があります 。

また、加圧トレーニングは有酸素運動と組み合わせることも可能で、低強度の有酸素運動でも心肺機能を高める効果が報告されています。

例えば、血流を制限して時速4~6km程度で15~20分歩くトレーニングでも、通常の有酸素運動と同等の心肺機能向上が得られたとの研究があります。

これは、加圧により軽い運動でも心拍数や代謝が上がり、短時間でエネルギー消費が増えるためと考えられます。その結果、運動強度を上げにくい高齢者や肥満の方でも無理のない負荷で脂肪燃焼効果を得やすくなる利点があります。

もっとも、ダイエットには運動だけでなく食事管理も欠かせません。加圧トレーニングを行っているのに痩せない人の中には、食事面の見直しが不十分なケースもあります 。

通常のトレーニングと同様、摂取カロリーの管理や栄養バランスと併せて活用することで、加圧トレーニングのダイエット効果は最大限発揮されるでしょう。

アンチエイジング効果

加圧トレーニングは「アンチエイジング」にも良い影響をもたらすとされています。特に成長ホルモンの分泌増加や血流改善による効果です。

成長ホルモンは肌のハリを保つコラーゲン生成や新陳代謝促進にも関与しており、加圧トレーニング後の成長ホルモン急増によって「美肌効果」が得られる可能性があります。

実際、前述の調査では利用者の57%に「肌がきれいになった」との報告があり、美容面での効果も期待されています。

また、軽負荷で筋力を維持・向上できる点は、中高年のサルコペニア(加齢に伴う筋肉減少)予防にも役立ちます。筋肉量の維持は基礎代謝アップや骨密度維持にもつながり、加圧トレーニングは高齢者のフレイル(虚弱)対策として「究極の予防策になり得る」との声もあります 。

さらに、加圧による適度な血流制限と再開を繰り返すことで血管の弾力性改善や血流増加といった効果も報告されています※。

これらは動脈硬化予防や冷え性改善など、加齢による体調変化を和らげる効果につながる可能性があります。

総じて、加圧トレーニングは筋力の衰えを防ぎ、ホルモン分泌や血流を活性化させることで若々しい体を保つ助けとなり得ると考えられています。

※血流制限下トレーニングが動脈のコンプライアンス(柔軟性)に及ぼす影響についての研究例: 高強度トレと加圧トレで動脈の柔軟性への影響を比較した研究では、加圧トレーニング群で動脈スティフネスの増加が抑制されたとの報告があります。

対象者別の視点:高齢者、アスリート、女性における効果と課題

加圧トレーニングの価値は、トレーニングを行う人の属性や目的によっても異なります。ここでは高齢者アスリート女性の3つの視点から、その効果と課題を見てみましょう。

高齢者における効果と課題

高齢者にとって筋力の維持・向上は転倒予防や健康寿命の延伸に直結します。しかし従来の高強度トレーニングは関節への負担や心臓への負荷も大きく、高齢者にはハードルが高い場合があります。加圧トレーニングはこうした高齢者に無理なく筋力トレーニング効果をもたらす手法として期待されています。

実際、日本国内の加圧トレーニング施設でも80歳以上の高齢者への導入例が多数報告されています (Use and safety of KAATSU training:Results of a national survey)

低負荷で行えるため安全性が高く、重い重量を扱えない高齢者でも取り組みやすいのが利点です。研究においても、加圧トレーニングが高齢者の筋力や歩行機能を改善するエビデンスが蓄積されています。

例えば、あるメタ分析では、加圧トレーニングにより高齢者の「タイムドアップアンドゴー(起立~歩行テスト)」が有意に短縮し、30秒間椅子立ち上がりテストの回数が増加、膝伸展筋力も向上したと報告されています (Frontiers | A call to action for blood flow restriction training in older adults with or susceptible to sarcopenia: A systematic review and meta-analysis)

また別の研究でも、加圧トレーニングにより高齢者の下肢筋力や筋肥大が得られたとの結果が示されており 、安全に実施できることも確認されています (Effect of Blood Flow Restriction on Gait and Mobility in Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis)

加圧トレーニングは低負荷ながら高閾値の筋繊維を刺激できるため、高齢者の筋肉量・筋力アップに有効と考えられます。

一方で課題もあります。血圧や心肺機能に不安のある高齢者の場合、加圧による一時的な血圧上昇や心拍数増加に注意が必要です。

また、動脈硬化や糖尿病による血管・神経障害がある場合、加圧ベルトの圧迫が合併症リスクを高める可能性もあります。

そのため高齢者が加圧トレーニングを行う際は専門指導者のもとで適切な圧力設定で行い、体調の変化に留意することが重要です。適切に実施すれば高齢者にとってメリットの大きいトレーニング法ですが、安全面への配慮を欠かさないことが求められます。

アスリートにおける効果と課題

(Kaatsu training is blowing fitness researchers' minds)米国のトレーニング施設で、アスリートが太腿に加圧ベルトを巻いて体幹トレーニング(レッグレイズ)を行っている様子です。

軽負荷の種目でもベルトで血流を制限することで筋肉に強い刺激を与えることができます。このように競技アスリートがリハビリや筋力強化の一環として加圧トレーニングを取り入れる例も増えています。

トップアスリートにとっても、加圧トレーニングは効果的な補助トレーニングやリハビリ手段となり得ます。

例えば、米国のスキー五輪メダリストであるボード・ミラー選手は大怪我からの長期リハビリ中に加圧トレーニングを活用しました 。

負傷部位に過度な負荷をかけられない状況でも、加圧により軽負荷で筋力維持・向上を図れたことが復帰を早めるのに役立ったとされています。また、日本の競技界でも密かに多くのアスリートが加圧トレーニングを取り入れていると言われます。

実際、メジャーリーガーの大谷翔平選手(エンゼルス)やダルビッシュ有選手(パドレス)といった一流選手も取り組む「ハイテクメニュー」として報じられたことがあります 。

特にシーズン中や故障後など、高重量トレーニングが難しい状況で筋力・筋量を維持する目的で活用されるケースが多いようです。

加圧トレーニングのアスリートへの主なメリットは、関節への負担を抑えつつ筋肉に追加刺激を与えられる点です。

ハードなトレーニングで関節や腱に疲労が蓄積しているときでも、加圧による低負荷トレーニングであれば比較的安全に筋肉だけを追い込むことができます。また、短時間で乳酸を蓄積させられるため、インターバル走やスプリントの代わりに心肺持久力トレーニングとして用いる例もあります 。

さらに、ベルトを巻いての軽いダッシュやジャンプは瞬発力強化にも応用され始めています 。

一方、課題としては高重量トレーニングの代替にはなり得ない点が挙げられます。

最大筋力やパワー発揮能力を高めるには、やはり通常の高負荷トレーニングが不可欠です 。

加圧トレーニングのみでは筋力向上効果が限定的であるため、あくまで補助的手段として位置づけ、本来のウェイトトレーニングを補完する形で使うのが望ましいでしょう。

また、加圧ベルト装着時の独特の痛みや違和感に慣れる必要がある点もアスリートによってはストレスとなります。競技力向上にはトレーニングの質を高めることが重要ですが、加圧による痛みに耐える精神力も要求される場面があるかもしれません。

総じて、アスリートにとって加圧トレーニングは「賢く使えば武器になるが、頼りすぎてはいけない両刃の剣」と言えるでしょう。上手に取り入れることでリハビリ期間の短縮やトレーニング多様化による新たな刺激が得られますが、競技特性に合わせた使い分けが重要です。

女性における効果と課題

加圧トレーニングは女性からの支持も集めています。実際、国内調査では加圧利用者の約54.6%が女性で、男性の45.4%を上回りました 。

女性に人気の理由として、「重いバーベルを持ち上げなくても筋肉に効く」という心理的ハードルの低さが挙げられます。

筋トレにおいて「ムキムキになりたくない」「重い重量は怖い」と思っている女性でも、加圧トレーニングなら軽いダンベルや自重で行えるため抵抗感が少ないようです。

その割に運動後は適度な筋肉の張り(パンプアップ)や代謝向上を実感できるため、ボディメイクや部分痩せ目的で取り入れる人もいます。

加圧トレーニングによる美肌効果やむくみ改善も女性にとって魅力的なポイントです。

前述のように成長ホルモン分泌の増加からコラーゲン生成が促されたり、血流制限と再開による血行促進で肌の代謝が上がったりすることで、肌のツヤやハリが向上したと感じる人もいます。

また、低負荷で関節に優しいため、産後のエクササイズや膝・腰に不安のある女性のトレーニング手段としても適しています。実際、整骨院や美容ジムで加圧を取り入れ、産後の体型戻しプログラムや下半身太り解消コースに応用している例もあります。

一方、女性特有の留意点もあります。

まず貧血気味の人は注意が必要です。加圧により一時的に血圧変動が起こるため、めまいや貧血症状が出やすい人は無理のない圧力設定が求められます。

また、月経周期によっては血栓リスクがわずかに高まる時期もあるため(月経中やピル服用中など)、念のため専門家と相談すると安心でしょう。

さらに、ダイエット目的の女性の場合、「加圧をやっているから大丈夫」と食事管理を油断すると効果が出ません。

適切な食生活との両輪で初めて脂肪減少効果が得られる点は通常の運動と同様です。

費用面も女性にとって継続のハードルになることがあります。「せっかく高額な費用を払ったのに効果がなかったらどうしよう」という不安の声も見受けられます。

パーソナルジムやエステ型の加圧スタジオでは1ヶ月数万円かかることもあり、経済的負担から途中でやめてしまうケースもあるようです。

このように、女性が加圧トレーニングに取り組む際は無理のない頻度と予算で継続する工夫が必要です。総じて、加圧トレーニングは女性のボディメイクや健康維持に有用な手段ですが、体調管理や費用対効果も考慮しつつ賢く活用することが大切です。

メリットとデメリットの比較

加圧トレーニングのメリット・デメリットを、身体的・心理的・費用面などの観点から整理します。

  • 身体的メリット: 低負荷で実施でき関節や腱への負担が小さい点が最大の利点です。例えば関節痛やケガで重い重量を扱えない場合でも、加圧ベルトを使えば軽い負荷で筋肉に強い刺激を与えられます 。

    また筋肉の損傷が少ないため筋肉痛や疲労が残りにくく、回復が早い可能性があります。

    実際、低負荷+加圧では筋繊維の微細な損傷(筋肉痛の原因となるダメージ)がほとんど起こらないとの報告もあります (Commentary: Can Blood Flow Restricted Exercise Cause Muscle ...)

    短時間(1回20分前後)で完結するので忙しい人でも取り組みやすく、運動習慣を維持しやすいという利点もあります。


  • 身体的デメリット: 血流を制限する特殊な方法ゆえのリスクもあります。一時的なしびれやめまい、皮下出血(内出血)などは加圧トレーニング中によく見られる副作用です。

    適切に行えば重大な事故はまれですが、既往症によっては注意が必要です。特に血栓症の既往がある人が誤って過度な加圧を行うと、致命的な合併症(血栓塞栓症)のリスクも考えられます 。

    また高血圧や心臓病を抱える人は、加圧による血圧上昇反応が危険となる可能性があります。このように健康状態によっては不適切な場合がある点はデメリットと言えます。

    実施にあたっては医師や有資格トレーナーに相談し、安全範囲内の圧力と負荷で行うことが重要です。


  • 心理的メリット: 「短時間で効果が出る」という触れ込みどおり、1回あたり数十分の時短トレーニングで成果が感じられるため達成感を得やすい点は魅力です 。

    また、トレーニング後に適度な筋肉のパンプアップ(張り)を実感できるため、「効いている」という手ごたえを感じやすくモチベーション維持につながります。さらに軽い重量で済む安心感から、筋トレ初心者や高齢者でも心理的抵抗なく始めやすいメリットがあります。


  • 心理的デメリット: 一方で、トレーニング中の独特の苦痛に挫けてしまう人もいます。

    ベルトで締め付けられた状態で運動すると、通常の筋トレ以上に筋肉の焼けつくような痛みや苦しさを感じることがあり、これが精神的ストレスになる場合があります。

    また、過度に宣伝されたイメージとのギャップもデメリットです。「魔法のように楽に痩せる」と期待したものの実際は地道な努力が必要で、「思ったほどではない」と落胆するケースもあります。

    高いお金を払って始めたのに効果を感じられないと、不安や焦りにつながる点も心理面の課題と言えるでしょう。


  • 費用面: 加圧トレーニングを専門ジムやスタジオで受ける場合、料金が高めに設定されていることが多いです。パーソナル指導料やベルト使用料などが加算され、月額費用が通常のジムより割高になる傾向があります。「高額な費用を払ったのに、意味がなかったらどうしよう」という不安の声も実際にあります 。

    一方、簡易的な加圧バンドを購入して自己流で行う場合は低コストですが、安全面の保障がありません。費用面でのメリット・デメリットはトレーニング環境によって大きく異なりますが、総じて正式に行うにはある程度のコストがかかる点は留意が必要です。

通常のトレーニングとの違い(負荷・時間・回復・効率など)

加圧トレーニングと従来のウエイトトレーニングでは、方法が大きく異なるため様々な違いがあります。ここでは負荷強度、所要時間、回復、効率の観点で比較します。

  • トレーニング強度(負荷): 加圧トレーニングでは扱う重量が圧倒的に軽いのが特徴です。一般的に1RM(最大挙上重量)の20~30%程度の負荷で、ベルトを巻いた部位の血流を制限して行います 。

    一方、通常の筋力トレーニングでは筋肥大目的の場合70~85%1RM程度の高負荷を用いるのが一般的です。加圧では軽い重量の代わりに回数を多く(例: 30回→15回→15回→15回の計4セット)行い、筋肉を強い疲労状態に追い込みます。

    高負荷トレーニングでは10回前後で限界が来る重量を用いるのに対し、加圧では軽負荷でも血流遮断により後半は限界まで追い込まれる点が異なります。このように、「重さ」ではなく「血流制限」によって筋刺激を与えるのが加圧トレーニングの大きな特徴です。


  • 所要時間: 加圧トレーニングは短時間で完結する傾向があります。1セッションあたりの所要時間はおよそ5~30分程度で、週に1~3回実施するプログラムが多いと報告されています (Use and safety of KAATSU training:Results of a national survey)

    実際、全国の施設調査でも「1回5~30分、週1~3回」が標準的な実施頻度でした。

    一方、通常の筋トレでは1回あたり1時間前後、週に3~5回程度行う人が多く、比較すると加圧トレーニングはかなり時短・低頻度であると言えます。

    短時間でも成長ホルモン分泌など生理反応が大きいため効率よく効果を引き出せるとされています。

    ただし、その分セット間の休息が短かったり連続して複数部位を行わないなど制約もあります。総じて、忙しい人にとっては短時間で済む加圧トレーニングは大きな利点と言えるでしょう。


  • 回復(疲労や筋肉痛の残り方): 加圧トレーニングは筋肉へのダメージが少ないとされています。軽負荷で行うため筋繊維の物理的損傷が少なく、その結果として筋肉痛(DOMS)が軽減される傾向があります。

一方、高負荷の従来トレーニングでは筋肉に微細な損傷が起こり、48時間程度の筋肉痛や回復期間を要することがしばしばです。

加圧では代謝的疲労は大きいものの機械的損傷が小さいため、場合によっては通常トレより短い間隔(毎日~隔日)でも実施可能とも言われます。ただし、血流制限に伴う強い代謝ストレスで一時的に筋力低下が起こるため、完全に疲労が抜けるまでは高強度の運動は控えた方が良いでしょう。

いずれにせよ、関節・筋肉へのダメージが抑えられる点で加圧は回復面で有利と考えられます。


  • トレーニング効率: 効率の観点では、それぞれ長所が異なります。加圧トレーニングは低負荷で速筋繊維を動員できる点で効率的です。

通常、速筋(II型筋繊維)は高負荷でないと十分使われませんが、加圧下では低負荷でも酸素不足により速筋が動員されやすくなります。

また短時間で心拍数や血中乳酸濃度を高められるため、短い運動でも全身のホルモン反応や筋肥大刺激を引き出せるのも効率の良い点です。

一方、通常の高負荷トレーニングはやはり最大筋力やパワー発揮という観点では効率的です。

重い重量を扱うことで神経系の適応を引き出し、筋力そのものを効率よく高められます。結局のところ目的によりますが、筋肥大という点では加圧も高負荷トレも同程度の効率を持ち、筋力向上という点では高負荷トレに軍配が上がるというのが研究上の結論です 。

したがって、自分の目的に合わせて両者を使い分けたり組み合わせたりするのが理想的と言えるでしょう。

加圧トレーニングブームが衰退した背景と理由

かつて一世を風靡した加圧トレーニングブームが落ち着いたのには、いくつかの背景要因があります。当初は画期的なメソッドとして脚光を浴びましたが、次第に課題も見えてきました。

以下、科学的根拠の面・業界の動向・ユーザーの反応という観点から、その理由を整理します。


  • 科学的根拠の成熟: ブーム初期は「短時間で劇的な効果」「誰でも楽に筋肉がつく」などと喧伝されることもありました。

    しかし研究が進むにつれ、加圧には確かに効果はあるが万能ではないことが明らかになりました。

    例えば筋力・筋肥大効果について、前述のように加圧より通常の高負荷トレーニングの方が勝るというデータも出ています 。

    ダイエットやアンチエイジングに関しても、加圧だけで魔法のような結果が得られるわけではなく、結局は食事管理や他の運動との併用が必要です。

    こうした科学的検証により、当初の過剰な期待が修正されて現実的な評価に落ち着いてきたことがブーム沈静化の一因と言えます。ブームの中で語られた「夢のような効果」に対し、その裏付けを冷静に見直す動きが専門家を中心に広まったのです。


  • 業界の変化: 加圧トレーニングは元々、発明者である佐藤義昭氏が特許を取得し、認定トレーナー制度を通じて広まった経緯があります。ブーム期には専門スタジオが乱立し高額な器具や講習も売れました。しかし特許期限の切れとともに市場環境が変化します。

2010年代後半になると、類似の安価な血流制限ベルトが出回り、「なんちゃって加圧」のような形で正規の資格を持たないトレーナーや自己流のユーザーが増えました。

その結果、一部で安全管理が不十分なケースや期待外れの結果に終わるケースも生じ、加圧トレーニングそのものの信頼性低下につながりました。

またフィットネス業界自体も移り変わりが激しく、加圧ブームの後にはクロスフィットやEMSトレーニング、HIIT(高強度インターバル)など新たなトレンドが登場し、話題の中心が移っていきました。

加圧専門ジムの中には業態転換した所もあり、ブームを牽引した企業も事業縮小を余儀なくされた例があります。

つまり、市場の競争激化と模倣品の氾濫がブーム終焉の背景にあったと言えるでしょう。


  • ユーザーの反応: 実際に加圧トレーニングを体験したユーザーからは賛否両論の声が聞かれます。

「短時間で効果を実感できた」「膝が痛くなく筋トレできる」といった肯定的な声がある一方、「試してみたけど効果を感じられない」「高額な費用を払ったのに意味がなかった」といった不満の声も少なからずありました 。

ブームのピーク時には芸能人やスポーツ選手の体験談がメディアに取り上げられ、人々の期待値が非常に高まっていました。

その反動で、一部のユーザーは期待したほどの劇的変化が得られず失望したり、「加圧トレーニングは意味ない」と検索する人も増えたりしました 。

また、加圧ベルトの圧迫による痛みや内出血痕などに抵抗を感じ、「自分には合わない」と離脱するケースもあります。

こうしたユーザー側の熱の冷めがブームの沈静化を後押しした面があります。

要するに、ブーム初期の頃に喧伝されたイメージと実際の体験とのギャップが、時間とともに人々の関心を薄れさせたのです。

以上のように、加圧トレーニングブームが衰退した背景には、科学的な評価の成熟、業界の環境変化、そしてユーザーのリアクションの変化が複合的に影響しています。

しかしブームは去っても加圧トレーニング自体の価値が消えたわけではありません

現在では筋力低下のリハビリや高齢者のトレーニング法、アスリートのコンディショニング手法として定着しつつあり、派手さはなくとも一つのトレーニングオプションとして着実に利用されています 。

ブームを経た今こそ、誇張抜きでそのメリットとデメリットを正しく理解し、自身の目的に合わせて賢く活用することが大切と言えるでしょう。

 

【参考文献】加圧トレーニングに関する国内外の研究論文、大学・医療機関の情報、およびトレーニング指導者の見解をもとに作成しています。 (01Sato) (The Influence of Interval Training Combined with Occlusion and Cooling on Selected Indicators of Blood, Muscle Metabolism and Oxidative Stress) (CW6_A1071D01.indd) (Effects of blood-flow restricted exercise versus conventional resistance training in musculoskeletal disorders—a systematic review and meta-analysis | BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation | Full Text) (加圧トレーニングの効果は?意味ないって本当?普通の筋トレとの違い | 初心者向けスポーツジム フィットメソッド) (加圧トレーニングの効果は?意味ないって本当?普通の筋トレとの違い | 初心者向けスポーツジム フィットメソッド) (Obesity management with blood flow restriction training: a scoping review | Bulletin of Faculty of Physical Therapy | Full Text) (加圧トレーニングは意味ない?効果がない人の特徴と対策とは - 加圧ビューティテラス) (Frontiers | A call to action for blood flow restriction training in older adults with or susceptible to sarcopenia: A systematic review and meta-analysis) (Effect of Blood Flow Restriction on Gait and Mobility in Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis) (Kaatsu training is blowing fitness researchers' minds) (Kaatsu training is blowing fitness researchers' minds) (土浦湖北 エンゼルス大谷翔平も実践する加圧トレーニング効果で19年ぶりの甲子園へ/茨城 - 高校野球夏の地方大会 : 日刊スポーツ) (加圧トレーニングの効果は?意味ないって本当?普通の筋トレとの違い | 初心者向けスポーツジム フィットメソッド) (Commentary: Can Blood Flow Restricted Exercise Cause Muscle ...) (Overall Safety and Risks Associated with Blood Flow Restriction ...) (Blood Flow Restriction Training - What Trainers Need to Know - ISSA) (加圧トレーニングは意味ない?効果がない人の特徴と対策とは - 加圧ビューティテラス) (血流の】“ニセ”加圧トレーニングにご用心【適切なコントロール】) (加圧トレーニングは意味ない?効果がない人の特徴と対策とは - 加圧ビューティテラス) (Obesity management with blood flow restriction training: a scoping review | Bulletin of Faculty of Physical Therapy | Full Text) (Use and safety of KAATSU training:Results of a national survey) (Use and safety of KAATSU training:Results of a national survey) (Use and safety of KAATSU training:Results of a national survey)