懸垂(チンアップ) vs ラットプルダウン:背中トレーニングの違い
懸垂、ラットプルダウンどちらも広背筋を中心に背中を鍛える種目ですが、動作や負荷設定、使われる筋肉には違いがあります。
本記事では①筋肉への効果、②フォーム・実施方法、③負荷と強度調整、④初心者向けのしやすさ、という4つの観点から懸垂とラットプルダウンを比較解説します。
筋肉への効果
懸垂もラットプルダウンも主に広背筋を鍛える種目ですが、補助筋の関与には差があります。
研究では「どちらの種目も広背筋への筋活動は同等であった」ことが報告されています。
一方で懸垂では上腕二頭筋や脊柱起立筋の活動度が高くなりやすく、ラットプルダウンより多く動員される傾向があります。逆に腹直筋は座位で行うラットプルダウン時に活動度が高いというデータもあります。
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広背筋・大円筋:両種目とも背中の最重要筋である広背筋を主働筋とし、広く鍛えられる。大円筋も合わせて動員されます。
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上腕二頭筋:懸垂では上腕二頭筋(腕の前側)の筋活動が高く、引く力を大きく使います。ラットプルダウンでも肘を曲げる動作で二頭筋は使いますが、相対的には懸垂の方が負荷が強くかかります。
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脊柱起立筋・体幹:懸垂ではぶら下がった姿勢で体幹を安定させる必要があるため、背骨沿いの筋肉(脊柱起立筋など)にも高い負荷がかかります。一方、ラットプルダウンは腰をパッドで固定することが多く、体幹への負荷はやや低くなる傾向があります。
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腹直筋:意外な点ですが、ある研究では腹直筋の活動度はラットプルダウンの方が高いと報告されています(座位で体幹を安定させる必要があるためと考えられます)。
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その他の筋肉:両者とも僧帽筋や菱形筋、後部三角筋など肩甲骨周辺の筋肉を動員します。NASMの解説でも、懸垂は広背筋・僧帽筋・後部三角筋・上腕二頭筋など多くの上半身筋群を同時に使うとされています。
フォームと実施方法の違い
懸垂とラットプルダウンは似た動作に見えますが、実施姿勢が大きく異なります。
ラットプルダウンは座位で腰をパッド等で固定して行うのに対し、懸垂はぶら下がった姿勢から自分の体重を引き上げます。この違いにより、各種目の特徴も変わります。
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姿勢・固定:ラットプルダウンではシートに座り膝で体を押さえるため上半身が安定しやすく、重りの負荷が逃げにくいです。懸垂では体がフリーなので、肩甲骨をしっかり下げて(伸展させて)体幹を固める必要があります。
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動作軌道:ラットプルダウンはマシンのガイドに沿ってバーを胸に引き下げます。懸垂ではバーに顎が触れるまで腕を引き、身体全体を持ち上げる動作になります。StrengthWarehouseによれば「ラットプルダウンは座位で固定軌道だが、懸垂は体幹の安定化が必要で動作の自由度が高い」と説明されています。
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手幅・グリップ:両方とも順手(手の甲が前)や逆手(チンニング)、ワイドグリップなどバリエーションがあります。ただし懸垂は自重が負荷になるため握力や前腕力も要求され、フォーム維持がやや難しくなります。
負荷の違いと強度調整
負荷の設定方法にも明確な違いがあります。ラットプルダウンはマシンのウエイトスタックで抵抗を細かく調整でき、扱う重量を1kg単位で増減できます。
StrengthWarehouseでも「ラットプルダウンは可変抵抗であらゆるレベルに対応可能」と解説されています。
一方、懸垂は基本的に自分の体重を引き上げるため、初心者には高負荷になりがちです。懸垂ができるようになると、さらにウエイトベルトやベストで重りを足し、負荷を増やすことも可能です。
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負荷調整のしやすさ:ラットプルダウンは扱う重量を自由に設定できるため、トレーニング強度の微調整が容易です。例えばレップ数を増やすときや、高重量低回数にする際も機械で簡単に重量を変更できます。
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体重依存 vs 可変負荷:懸垂では最初に自重が負荷となるため、急に高重量となり初心者には難易度が高い点に注意が必要です。しかし慣れてくれば 加重懸垂(重りをつけて行う懸垂)で負荷を高めることができます。
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安定筋の関与:懸垂では体幹や肩周りの安定筋がより強く働き、機能的な筋力向上につながるとされています。ラットプルダウンは安定が機械任せになる分、ターゲット筋(広背筋)への刺激を集中しやすいというメリットがあります。
初心者向けの実施しやすさ・利便性
初心者の扱いやすさでは、ラットプルダウンが優位です。専門家によれば「初心者にはラットプルダウンのほうが負荷を調節しやすく、フォーム習得もしやすい」と指摘されています。
実際、ラットプルダウンは重りを軽くすれば誰でも一定の可動域で動作できるため、筋力が弱い方でも段階的にトレーニング可能です。一方で懸垂は初めは体重すべてを引くため難易度が高く、何度も反復できないことも多いです。
そのため初心者はアシストマシンやチューブで補助したり、まずはラットプルダウンで背中の動きを習得してから懸垂に挑戦するケースが一般的です。
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負荷の選択肢:ラットプルダウンは重量を0から設定できるので、トレーニング強度を自分に合わせやすい。懸垂の場合は補助なしだといきなり高い負荷になるため、初心者はまず腕立て系のトレーニング(垂直懸垂やラットプルダウン)で筋力をつけるのがおすすめです。
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器具・環境:ラットプルダウンはジムの専用マシンが必要で自宅には設備しづらいですが、懸垂は専用の懸垂バーさえあれば実施できます。家庭用懸垂バーも市販されており、意欲があれば自宅でも取り組みやすい種目です。
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安全性:ラットプルダウンは座位で体勢が安定しやすく、腰や背中への負担が比較的少ない利点があります。懸垂はフォームが崩れると腰を反らせやすいので、初心者は特に無理せず回数を管理する必要があります。
まとめ: 懸垂とラットプルダウンはどちらも背中の広背筋を主に鍛える効果的な種目です。
懸垂は全身の筋肉を総動員しやすく、特に上腕二頭筋や体幹の筋力向上に優れています。ラットプルダウンは負荷調整が容易で正しいフォームを維持しやすいため、初心者や軽負荷で確実に筋肥大を狙いたい方に向いています。用途やレベルに応じて両者を使い分けることで、背中をより効率的に鍛えることができます。