スロートレーニングとは
スロートレーニング(スロトレ)は、筋力トレーニングの動作を意図的にゆっくり行い、筋肉に長時間負荷をかけるトレーニング法です。
例えばスクワットなら「膝を曲げるのに3秒、伸ばすのに3秒」かけるなど、動作をゆっくり丁寧に行います。
こうすることで筋肉の緊張時間(タイム・アンダー・テンション)が増え、軽めの負荷でも効率よく筋力アップや筋肥大を狙えます。スロートレは関節や腱への衝撃が少なく高齢者や初心者にも適し、全身の大きな筋肉を動かすため基礎代謝アップ・ダイエット効果も期待できます。
筋力・筋肉量への効果
研究では、スロートレーニングが筋力と筋肉量の両方の向上に有効であることが示されています。
東大・医薬基盤研の渡邉らの研究では、59~76歳の男女に対し、通常速度の膝屈曲運動と「3秒下ろし・3秒上げ」のスロートレを比較したところ、スロートレ群では大腿部の筋厚が有意に増加し筋力も強化されました。
一方、通常トレーニング群は筋力は増えたものの筋肥大は限定的でした。つまり「低負荷でもスロートレで筋肉量の増加が得られる」ことを示しています。
また米国YMCAのWestcottら(2001年)も、中高年の男女65名を対象にした研究で、スーパースロートレ(10秒上げ10秒下げ)群が通常トレ群に比べて男女ともに約50%多く筋力が増加したと報告しています。
これらの結果から、性別を問わずスロートレは筋力アップに効果があり、特に高齢者にとって安全で有効な方法といえます。
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中高年・高齢者の効果: 渡邉らの研究は高齢者(59~76歳)で効果を立証。加齢に伴うサルコペニア(筋肉減少)予防にもスロートレは有用であり、関節負担が少ない点で推奨されています。
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若年者の効果: 若年女性の短期研究でも、スロートレグループは柔軟性や筋力増強を示しました。伝統的トレーニングと比較しても効果は大きく変わらず、男女問わず取り入れられます(若年層でも同等の成果が期待されます)。
ダイエット・体脂肪への効果
スロートレーニングそのものは有酸素運動のように大量の脂肪を直接燃焼するものではありませんが、筋肉量の増加を通じて基礎代謝が上がることで長期的な体脂肪減少が期待できます。
例えば、筒井ら(2018年)の研究では、70歳以上の男女が12週間の自重スロートレ(各動作4秒ずつ)を行ったところ、太ももの筋肉厚・筋力が増えた一方、ウエストや腹部の脂肪厚が有意に減少しました。
また先述の渡邉らも「スロートレ群は大腿筋量が増加し、筋トレ+有酸素運動で余分な脂肪も減らす組み合わせが有効」と述べています。
筋トレで筋肉量を増やし、それに加えてウォーキングなどの有酸素運動を組み合わせることで、健康的なダイエット効果を得られると指摘されています。
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筋肉増加→代謝アップ: 筋肉量が増えれば安静時のカロリー消費が増加し、痩せやすい体質になります。
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部分痩せの可能性: スロートレでは腹筋や大腿四頭筋など主要な筋肉を刺激するため、腹部や太ももの皮下脂肪減少が期待できます。
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持続的効果: 半年以上の継続で、じっくり筋肉を育てつつ徐々に体脂肪率を下げる効果が高まります。急激に追い込むトレーニングよりも、継続しやすい点が特徴です。
性別・年齢別の効果
スロートレーニングは性別や年齢に関係なく有効とされています。
上述の研究では、男性・女性ともに同程度の筋力・筋量増加効果が報告されています。
特に加齢によって筋肉が減りやすい高齢者にも「少ない負荷・ゆっくり動作」で十分な効果が得られるため、高齢者向けの筋トレ法として推奨されています。
若年層でも取り組めば筋力・持久力が向上しますが、筋肥大のためにはプロテイン摂取など食事面の配慮も欠かせません。
なお若年層向けの研究では、極端なスロースピードよりも「ゆっくり下ろして上げは速めに」といった組み合わせが筋肥大に有効との報告もあります。
つまり、男女・年齢を問わず一定の成果が期待できますが、目的や体力に応じて負荷やスピードは調節すると良いでしょう。
実施方法と注意点
スロートレーニングの基本は、動作をゆっくり丁寧に行うことです。代表的な方法例としては:
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【負荷設定】軽~中程度の負荷(例えば1RMの約50~60%程度)から開始し、フォームを崩さずに10~15回程度反復できるよう調整します。
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【動作ペース】各レップの上げ下げを3~5秒程度かけて行います。例えばスクワットなら「しゃがむ3秒・立ち上がる3秒」、腹筋なら「起き上がる3秒・戻る3秒」といった具合です。動作中は常に筋肉に力を入れ続け、途中で反動や休止を入れないようにします。
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【呼吸法】力を入れるとき(上げる・起き上がるとき)に息を吐き、戻すときに息を吸います。呼吸を止めると血圧が上がるため注意しましょう。
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【回数・セット】1種目につき1セットでも筋肉は刺激されますが、慣れてきたら2~3セット行うと効果的です。週2~3回、全身をまんべんなく鍛えられるようメニューを組みましょう。
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【休息】スロートレは筋肉に強い緊張をかけるため、セット間は2~3分程度休むと回復しやすくなります。
注意点として、極端に遅い「スーパー・スロートレ」では、逆に筋肥大効果が限定的との指摘もあります。
例えばトレーナーらは「0.5~8秒の幅であれば筋肥大に大きな差はなく、極端にゆっくり行うメリットは明確でない」と述べています。
そのため、3~8秒程度のゆっくりペースでしっかり負荷をかけるのが現実的です。また、高齢者や初心者は無理せず補助を使ったり膝つき腕立て伏せにするなど、関節への負担を軽減しながら行いましょう。いずれの場合も正しいフォームを維持し、痛みが出ない範囲で動かすことが大切です。
効果を最大化するコツ
スロートレの成果を高めるためには、継続と漸進(段階的負荷増加)が重要です。目安として半年~1年続けることで、徐々に筋肉量の増加や体型変化が実感できるでしょう。以下のポイントを押さえて取り組むと効果的です:
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漸進的負荷増加:慣れてきたら回数やセットを増やしたり、ダンベルの重量を少し上げるなどして負荷を少しずつ強めます。筋肉が慣れて成長が鈍らないよう、段階的に負荷アップしましょう。
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フォーム重視:動作中は常にターゲット筋に意識を集中し、反動を使わず動くこと。特にスロートレは反動が入りやすいので、鏡で確認するかトレーナーに指導してもらうと安心です。
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栄養管理:筋力増強には筋肉の材料であるたんぱく質が必須です。厚労省の指針でも70歳以上の高齢者では1日60g(男性)/50g(女性)のタンパク質摂取が推奨されています。肉・魚・卵・乳製品・豆類などでたんぱく質を意識的に摂り、筋トレ効果をサポートしましょう。
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有酸素運動との併用:脂肪燃焼効果を高めるには、スロートレ後や別日にウォーキング・ジョギング・サイクリングなどの有酸素運動を組み合わせると効率的です。強度は無理のないペースでOKです。
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休養と睡眠:筋肉は運動によって刺激を受け、休息・睡眠時に修復・成長します。十分な睡眠と休日の休息もトレーニング効果の鍵です。
まとめ
スロートレーニングは「少ない負荷でゆっくり動作する」ことで、筋肉に長い時間刺激を与え、安全に筋力アップ・筋肥大を狙えるトレーニング法です。
研究では男女ともに従来法以上の筋力増加が報告されており、特に高齢者のサルコペニア予防に有効とされています。
同時に筋量増加で基礎代謝が上がるため、体脂肪減少やダイエットにもつながります。一方で「極端にゆっくりすぎる必要はない」「負荷量を確保することも大切」という指摘もあるため、適切な速度(目安は1レップ3~8秒)で継続的に続けることが肝心です。
正しい方法と栄養・休養を組み合わせれば、半年~1年の継続で確かな成果が得られるでしょう。
参考文献: 専門誌や学会資料から、スロートレの効果に関する研究報告や専門家見解を参照した。