筋肉痛と筋肥大と関係性。痛みは筋肉成長の指標になるのか?

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2025.06.12

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筋肉痛と筋肥大と関係性。痛みは筋肉成長の指標になるのか?

筋肉痛と筋肥大と関係性。痛みは筋肉成長の指標になるのか?

筋肉痛と筋肥大と関係性。痛みは筋肉成長の指標になるのか?

 

筋トレの翌日に感じる筋肉痛(遅発性筋肉痛:DOMS)は、「効いた証拠」「筋肉が成長しているサイン」と思われがちです。

しかし、筋肉痛と筋肥大(筋肉の成長)は本当に比例するのでしょうか?

また、筋肉痛が残る状態でトレーニングを続けると筋肥大やパフォーマンスにどう影響するのか、怪我のリスクはあるのか、回復は遅れるのかなども気になるポイントです。

本記事では最新のエビデンスに基づき、筋肉痛と筋肥大の関係、筋肉痛時のトレーニングの効果とリスク、そして筋肉痛を最短で和らげる方法があるのかについて解説します。

遅発性筋肉痛(DOMS)とは?

まず筋肉痛(DOMS)について簡単におさらいします。

DOMSとは、普段行わない激しい運動や新しい種目に取り組んだ後、12~24時間経ってから現れる筋肉の痛みやこわばりのことです。

痛みは運動後48~72時間でピークに達し、その後徐々に治まります。典型的には筋肉が伸びていきながら負荷をかけるエキセントリック運動(例えば膝関節、股関節を曲げていく際のスクワット)で起こりやすいですが、慣れていない動きであれば種目を問わず発生し得ます。

筋肉痛がある筋組織では、顕微鏡レベルで筋繊維に微細な損傷や炎症反応が起きていることが知られています。

ただし、痛みの原因は筋線維そのものではなく、損傷部位から放出された物質による周囲組織の刺激や炎症だと考えられています。

つまり、乳酸が原因というのは過去の誤解で、DOMSは運動後に生じる筋組織周辺の炎症反応などによって引き起こされる現象なのです。

筋肉痛と筋肥大の関係 痛み=成長の証拠か?

筋トレ愛好者の中には「筋肉痛になるほど追い込めた=筋肉が大きくなる」と信じている方もいます。

しかし、筋肉痛(筋損傷)の程度と筋肥大の度合いは必ずしも相関しません

例えば、長距離ランニングの後には筋肉痛になることがありますが、ランニングでは筋肥大はごくわずかしか起こりません。

一方で筋トレ初心者はトレーニング直後によく筋肉痛になりますし、同時に筋肥大もしやすいですが、それは未知の刺激に筋肉が驚いて損傷した結果であって、痛みそのものが筋肉を成長させているわけではありません

実際、筋肉を大きくする主な刺激は筋肉にかかる張力(負荷)や代謝的ストレスであり、筋損傷(筋肉痛)は「副産物」に過ぎないとも言われています。

研究では、エキセントリック運動のように筋損傷を起こしやすい条件でも、筋肥大の結果がコンセントリック運動と比べて常に大きいとは限らないことが示されています。

つまり、筋肉痛が強い=筋肉が大きくなるではなく、筋肉痛がなくても筋肥大は起こるし、筋肉痛があっても筋肉が成長しない場合もあるのです。

筋肥大を促すには十分な負荷と栄養・休養による適応が重要で、痛みの有無はトレーニング効果を判断する決定打にはなりません。

筋肉痛が残る状態での筋トレ:効果とリスク

では、まだ筋肉痛が残っている状態で再び筋トレを行うとどうなるのでしょうか?

ここでは筋肉痛時のトレーニングがパフォーマンスや筋肥大に与える影響、そして怪我のリスクや回復遅延の可能性について見ていきます。

パフォーマンス低下と筋肥大への影響

強い筋肉痛が残る筋肉は、一時的に筋力やパワーが低下しています。

研究によれば、ひどいDOMSでは筋力発揮能力が最大で50%も低下することが報告されています。

筋肉痛による痛みや張りのために関節の可動域が狭くなり、筋肉が十分伸縮できないことや、脳が痛みをかばって普段と異なる筋肉の使い方(運動パターンの乱れ)を招くことが要因です。

その結果、本来狙った筋肉への筋活動(筋繊維の動員)が低下し、別の部位で代償しようとする動きになることがあります。

つまり、筋肉痛のせいでフォームが崩れたり、十分な重量や回数を扱えなかったりして、次のトレーニングの質が下がってしまう可能性が高いのです。

この状態が続けば、長期的には筋肥大の効率も落ちてしまいます。

実際、筋肉痛があるまま無理に高強度トレーニングをしても、十分な刺激を与えられず筋肥大の効果が頭打ちになる恐れがあります。

一方で、「筋肉痛でも鍛えればさらに筋肉が壊れて超回復で大きくなるのでは?」という疑問もあるかもしれません。

しかし、筋肉痛が残る段階で同じ部位を追い込んでも、筋肉に新たな成長刺激を与えるより先に回復プロセスを妨げてしまう可能性があります。

軽い筋肉痛であれば循環が促されて回復にプラスになることもありますが、強い痛みがある場合は無理に高負荷をかけるメリットは小さく、効率的とは言えません。

筋肥大には「適切な負荷」と「十分な回復」の両方が必要であり、筋肉痛が酷い時は休息もトレーニングのうちと考えるのが賢明です。

怪我のリスク

筋肉痛が激しい状態でのトレーニングは、怪我のリスクも高めると指摘されています。

DOMSは一種の軽い筋肉の損傷(=筋肉の軽度の捻挫)とも言えます。そのため完全に治っていないうちに同じ部位へ強い負荷をかけると、筋繊維やその付着部に過度のストレスが蓄積します。

筋肉痛により身体の動きがぎこちなくなったり、他の部位で代償動作が起きたりすると、普段かからない負荷が腱や靭帯にかかってしまいます。

このような異常な負荷分散やフォームの乱れがあると、関節や結合組織を痛める危険性が高まります。

実際、筋肉痛で関節の衝撃吸収能力が低下した状態でジャンプやランニングをすると着地衝撃が大きくなり、捻挫などのリスクが増える可能性があります。

加えて、筋肉痛がある筋肉は筋力低下しているため、重い重量を扱うと支えきれずに筋肉や腱を傷めることも考えられます。

研究では「筋肉痛から十分回復していない段階でスポーツに早期復帰すると、二次的な損傷のリスクが高まる可能性がある」と報告されています。

特に初心者が強い筋肉痛を我慢して無理なトレーニングをすると、最悪の場合横紋筋融解症(筋組織が深刻な損傷を受け分解産物が腎臓に悪影響を及ぼす危険な状態)に陥るケースもあります。

これは極端な例ですが、いずれにせよ痛みが強いときに無理をするのは禁物です。

回復プロセスへの影響

筋肉痛が残るうちに再度ハードな運動を行うと、筋肉の回復プロセスに干渉し、修復に時間がかかる可能性があります。

筋トレで筋繊維に傷がつくと、体はその修復と適応(より強く太くすること)に取り組みます。

このリカバリーと適応に通常48~72時間程度必要と言われます。しかし筋肉痛が癒えていない段階で同じ部位を追い込むと、本来進行中だった修復が中断されたり新たな損傷が上乗せされたりして、結果的に完全な回復が遅れてしまう恐れがあります。

その間、筋力低下や炎症も長引き、次のトレーニングで全力が出せない状態が続くかもしれません。

また、常に筋肉痛が残った状態でトレーニングを繰り返すと、疲労が蓄積してオーバートレーニングに近い状態になるリスクもあります。

筋肉の修復が追いつかず慢性的な炎症が残ったり、免疫機能や睡眠に悪影響が出たりする可能性があります。

筋肥大のためにはトレーニングも大事ですが、休養による超回復で筋肉が強く大きくなることを忘れてはいけません。

実際、スポーツ医学の知見では「毎日トレーニングしなければならない場合、筋肉痛が強い日は1~2日負荷やボリュームを落とすか、別の部位を鍛えて最も痛い筋群を休ませるべき」とされています。

筋肉痛がひどい時には無理に同部位を追い込まず、休息や軽い運動に留めるほうが長期的にはプラスなのです。

筋肉痛を早く治すには?最新エビデンスに基づく対策

筋肉痛があると日常生活もつらいもの。できるだけ早く治す方法はあるのか? 最新の研究を踏まえ、有効とされるリカバリー方法を紹介します。

即効で魔法のように痛みを消す裏技は残念ながらありませんが、適切な対策をとれば筋肉痛の軽減や回復の促進が期待できます。以下に代表的な方法をまとめます。


  • アクティブリカバリー(軽い運動)

    完全休息よりも軽い有酸素運動やストレッチ、低強度の動きで筋肉をほぐす方が、血流が促進されて回復を助ける場合があります。

    実際、軽い運動はDOMS中の一時的な痛みを和らげる効果が確認されています(いわゆる“動いている間は楽になる”現象です)。ただし効果は一時的なので、他の対策と組み合わせると良いでしょう。


  • マッサージ

最もエビデンスが高いのはマッサージによる筋肉痛軽減効果です。運動後のマッサージは痛みの原因となる炎症物質の除去を促し、筋肉の緊張を和らげることでDOMSを和らげます。

実際、複数研究のメタ分析でもマッサージがDOMSと疲労感を最も効果的に減らしたと報告されています。プロのスポーツ現場でも、激しいトレーニング後にマッサージを取り入れることが一般的です。


  • フォームローリング(筋膜リリース)

自分自身で行うセルフマッサージの一種です。フォームローラーという円柱状の用具を体重で押し当てて筋肉をゆっくりほぐします。

近年いくつかの研究が行われ、フォームローリングは筋肉痛の緩和や筋肉のこわばり解消に有効であると示唆されています。

実際、フォームローリングを行った群は行わなかった群に比べて筋肉痛の回復が早く、筋の柔軟性や垂直跳びなどのパフォーマンスの戻りも良好だったという報告があります。

手軽で安価にできる方法なので、筋トレ後や翌日に取り入れてみる価値があります。

  • アイシング・水風呂(冷却療法)

運動直後にアイスパックで痛めた筋肉を冷やしたり、氷水を張った浴槽に数分浸かるコールドウォーターベースのリカバリーも試みられています。

冷却は炎症を抑え痛みを感じにくくするため、短期的には筋肉痛を和らげる効果があります。

実際、水風呂や氷風呂に入るとDOMSの主観的な痛みが小さくなるという報告もあります。しかし注意点もあります。冷却によって炎症反応が抑えられ過ぎると、筋肥大に必要な適応プロセスまで弱めてしまう可能性が指摘されています。

例えば、筋トレ直後に毎回アイスバスを利用した場合、長期的には筋力や筋量の向上がやや抑制されたとの研究もあります。

したがって筋肉を大きくしたい場合、冷却療法は頻繁に使いすぎないほうが無難です(大会前など一時的なリカバリーには有用です)。


  • コンプレッション(圧迫)

加圧スパッツやサポーターなどで筋肉を適度に圧迫する方法です。

圧迫により筋肉の揺れが抑えられ、静脈血やリンパの流れが改善することで筋肉痛の軽減や疲労回復促進につながるとされています。

メタ分析でも、コンプレッションウェアの着用は主観的疲労感の低減に有効との結果が出ています。日常でも取り入れやすい手段でしょう。


  • 栄養(プロテイン・マグネシウムなど)

筋肉痛からの回復には栄養面のサポートも重要です。

筋繊維修復には十分なタンパク質が必要なのは言うまでもありません。

また、近年の研究ではマグネシウム(Mg)のサプリメントが注目されています。2024年の系統的レビューによれば、運動前に適切な量のマグネシウムを摂取すると運動後の筋肉痛が軽減され、パフォーマンスや回復が向上したと報告されています。

激しい運動をする人は一般人より10~20%多めのマグネシウム摂取が推奨されるとも言われます。

その他、抗炎症作用のあるオメガ3脂肪酸(魚油)やポリフェノール(タルトチェリージュースなど)も筋肉痛軽減に効果を示す報告がありますが、研究ごとに結果が分かれており万人に有効とは言えません。

しかし十分な栄養(タンパク質・ビタミン・ミネラル)と水分を摂り、睡眠をしっかりとることが、筋肉の修復を早め結果的に筋肉痛から早く回復する基本であるのは間違いありません。


  • 鎮痛剤(NSAIDs)

イブプロフェンなどの抗炎症薬は筋肉痛の痛みを一時的に和らげてくれます。

ただし痛みを感じにくくなるだけで、根本的な回復を早めるものではありません。

むしろ炎症を強力に抑えすぎるため、筋肉の適応を妨げて筋力・筋量の向上が鈍る可能性が指摘されています。

従って筋肥大を目指す場合は、慢性的なNSAIDsの使用は控え、どうしても日常生活に支障がある時だけ最低限に留める方が良いでしょう。


以上のように、科学的エビデンスからは「筋肉痛を完全になくす即効薬」は無いものの、適切な手段を組み合わせれば症状を和らげ回復を促進できることが示唆されています。

特にマッサージや軽い運動、フォームローリングなどは手軽に取り入れられるうえ効果が比較的確実です。

一方で、ストレッチや入浴前のウォームアップについては筋肉痛予防・軽減の効果が確認されていないことも知っておきましょう。

筋肉痛に悩まされにくくするには、日頃からのコンディショニングと計画的なトレーニング負荷の調整が大切です。

まとめ:筋肉痛と上手に付き合おう

筋肉痛(DOMS)そのものは、筋繊維の損傷と修復に伴う一時的な痛みであり、その強さが筋肥大の度合いを決めるわけではありません

筋肉痛がなくても筋肉は成長しますし、逆に筋肉痛がひどいからといって大きく肥大しているとは限らないのです。

筋肥大の鍵は適切な負荷刺激と十分な栄養・休養であり、痛みはあくまで副産物のサインと捉えましょう。

また、筋肉痛が残るうちに無理をしてトレーニングを続けると、一時的なパフォーマンス低下によりトレーニング効率が落ちたり、フォームの乱れから思わぬ怪我につながったりする可能性があります。

成長のためには休む勇気も必要です。筋肉痛が強いときは敢えてターゲット部位を休ませ、別の部位を鍛えたり軽めの運動で全身の血行を促進したりすると良いでしょう。

筋肉痛を完全に避けることは難しいですが、徐々に負荷を上げる漸進的なトレーニング計画や適切なウォームアップ・クールダウンでその頻度や重症度を抑えることができます。

そして万一ひどい筋肉痛になった際も、慌てず今回紹介したようなエビデンスに基づく方法でケアすれば回復を早めることが可能です。

筋トレを長く継続していく上で、筋肉痛と上手に付き合い、痛みよりも確実な成長指標(扱える重量の増加や筋囲の変化など)に目を向けることが大切です。

筋肉痛に一喜一憂せず、計画的にトレーニングと休養を積み重ねていきましょう。筋肉は適切に使い、休ませ、栄養を与えれば必ず応えてくれるはずです。

参考文献

 

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