速筋繊維と遅筋繊維の違いと効果的なトレーニング方法
筋トレやスポーツの話題で「速筋」「遅筋」という言葉を耳にしたことはありませんか?
速筋繊維と遅筋繊維は私たちの骨格筋を構成する2種類の筋線維で、それぞれ性質や役割が異なります。
本記事では、速筋と遅筋の違いや見た目の違い、それぞれの役割について、初心者にもわかりやすく解説します。
さらに、筋肥大(筋肉を大きくする)、持久力向上、競技力向上といった目的ごとに、最新エビデンスに基づいた速筋・遅筋を意識したトレーニング方法も紹介します。速筋と遅筋を理解して、自分の目的に合った効果的なトレーニングを始めましょう!
速筋と遅筋の主な違い
筋肉を構成する速筋繊維と遅筋繊維は、収縮スピードやエネルギーの使い方の違いにより白筋(速筋)と赤筋(遅筋)とも呼ばれます。主な違いをまとめると次のとおりです。
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速筋繊維(白筋)
収縮速度が速く、瞬間的に大きな力を発揮できます。
一方で疲労しやすく持久力は低めです。また筋肥大しやすい性質があり、鍛えると筋肉は太く発達します。ウェイトリフティング選手の逞しい筋肉や短距離走選手の太い脚は、速筋線維が発達しているためです。
速筋線維はミオグロビン(酸素を貯蔵するタンパク質)やミトコンドリア(エネルギー産生器官)が少ないため筋肉の色は白っぽく見えます。
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遅筋繊維(赤筋)
収縮速度は遅く、一度に発揮できる力も小さいですが、疲れにくく長時間にわたって力を出し続けることができます。
持久力に優れる反面、大きな力を必要としないため速筋ほど太くはなりません。マラソン選手の脚が太くなりにくいのは、遅筋線維が主体で瞬発的な大出力を必要としないからです。
遅筋線維にはミオグロビンやミトコンドリアが豊富に含まれるため筋肉が赤みを帯びて見えます。
上記のように、速筋は「瞬発力担当の白い筋肉」、遅筋は「持久力担当の赤い筋肉」とイメージするとわかりやすいでしょう。
日常生活の動作でも、速く大きな力が必要な場面では速筋が、姿勢維持や長時間の運動では遅筋が主に働いています。例えば重い荷物を持ち上げる瞬間には速筋が動員され、長時間歩いたり立ち続けたりするときには遅筋が頑張って支えているのです。
速筋繊維の特徴と役割
速筋繊維(タイプII線維)は、高速で収縮し大きな力を生み出せるのが最大の特徴です。そのため瞬発力やパワーが必要な動きで主役となります。
具体的には、短距離走のダッシュやジャンプ、重量挙上(ウェイトリフティング)のような無酸素運動で主に活躍します。速筋はエネルギー源として主に筋内の糖(グリコーゲン)を使い、酸素をあまり必要としないため、長時間の活動には向きません。
その結果、速筋は疲労しやすいという弱点もあります。
速筋は筋繊維一本あたりの断面積(太さ)が大きく、筋肥大しやすい性質があります。
トレーニングによって速筋繊維が発達すると筋力が増し、筋肉自体も目に見えて大きく太くなります。
短距離走者やパワー系競技の選手の筋肉が一般の人より発達して見えるのは、速筋が発達している割合が高いためです。
しかし裏を返せば、速筋線維は使わないでいると萎縮しやすく、加齢とともに衰えやすいことも知られています。例えば「動きが年をとると遅くなる」のは速筋の衰えが一因です。20歳前後をピークに速筋繊維は徐々に減少するとされ、高齢になるほど瞬発力が低下しやすくなります。
まとめると、速筋繊維は瞬時に大きな力を発揮する役割を持ち、スポーツではスプリントやウエイトリフティングなどパワー系の動きで重要です。
一方、持久力に乏しいため長時間の運動には不向きですが、その分しっかり鍛えれば筋力・筋量の向上に大きく貢献してくれます。
遅筋繊維の特徴と役割
遅筋繊維(タイプI線維)は、収縮スピードがゆっくりで一度に出せる力は小さいものの、疲労耐性が高く長時間働き続けられるのが特徴です。
エネルギー供給には酸素を利用した有酸素代謝を主体としており、ミトコンドリアでのエネルギー産生や血液中の酸素を筋肉に貯蔵するミオグロビンの量が多いため、筋肉が赤みを帯びています。
このような性質から、遅筋繊維は持久力が求められる運動で主に活躍します。
例えばジョギングやマラソン、自転車長距離走などでは遅筋が中心となって働き、姿勢維持や立ち仕事など日常的な長時間の軽度な筋活動にも遅筋が貢献しています。
遅筋繊維は速筋に比べて筋繊維が太くなりにくく、筋肥大しづらい傾向があります。
大きな力を発揮する必要がないため筋断面積がそれほど増えないのです。そのため、マラソン選手など持久系競技のトップアスリートは脚が引き締まって細長く見える傾向があります(持久系のトレーニングでは筋持久力は向上しても筋肉量はそれほど増えないことを反映しています)。
遅筋繊維は加齢による衰えが比較的少ないとも言われ、年をとっても持久力は維持しやすい筋肉です。もっとも、遅筋も全く衰えないわけではなく、使わなければ機能低下する点は他の筋肉と同様です。
まとめると、遅筋繊維は酸素を使った代謝によって長時間働くスタミナ役の筋肉です。スポーツでは持久走や長距離自転車競技、水泳の長距離種目などエンデュランス系の動きで重要な役割を果たします。
また日常生活においても姿勢保持や長時間の歩行などで私たちの体を支えてくれる、縁の下の力持ち的な存在です。
目的別:速筋・遅筋を意識したトレーニング方法
速筋と遅筋の性質を理解すると、「どのように鍛えればそれぞれが発達するのか?」という疑問が湧いてきます。
ここからは目的(筋肥大・持久力アップ・競技力アップ)別に、速筋繊維・遅筋繊維を意識したトレーニングのポイントを紹介します。
最新の研究知見も踏まえ、自分の目標に合ったトレーニング計画の参考にしてください。
筋肥大を目指すトレーニング(速筋重視)
筋肉を大きく太くしたい場合、速筋繊維を重視したトレーニングが鍵になります。
速筋は遅筋に比べて筋肥大(筋繊維の断面積増大)のポテンシャルが高く、研究でも速筋線維の方が大きく成長しやすいことが示されています。
このため、ボディビルや筋力トレーニングでは主に速筋を刺激するような負荷設定が有効です。
速筋を効率よく刺激するには、高強度のレジスタンス運動(重量を扱った筋トレ)を行うことが推奨されます。
具体的には最大挙上重量の60~70%以上の負荷で、6~12回程度の反復が限界となる重量を扱うトレーニングが一般的です。重い負荷でトレーニングを行うと、低閾値の遅筋だけでなく高閾値の速筋繊維まで動員され、筋繊維が損傷します。
損傷した筋繊維が修復・適応する過程で太く強くなっていく(いわゆる超回復による筋肥大)ため、結果的に筋ボリュームが増大します。
例えば週に2~3回、スクワットやベンチプレスなど複数の筋群を使うコンパウンド種目を中心に、高重量×低~中回数のセットで筋トレを行うとよいでしょう。
一方で、低負荷高回数のトレーニングでも筋肥大は起こりうるというエビデンスも近年増えています。
ポイントは「筋繊維が疲労困憊するまでやりきること」です。軽い重量でも回数を重ねて限界まで筋肉を追い込めば、最終的には遅筋だけでなく速筋繊維まで動員されるため、高負荷トレーニングと同様に筋肥大刺激を与えられることが分かっています。
特に血流制限トレーニング(BFR)のように血流を一時的に制限しながら軽い負荷で行う手法では、遅筋線維の方がむしろ大きく肥大するケースさえ報告されています。
実際、低負荷+BFRトレーニングでは速筋と比べて遅筋の方が大きく肥大したとの研究結果もあり、高負荷トレーニングでは速筋の方が顕著に肥大しやすい傾向と対照的でした。
もっとも通常の低負荷トレーニングと高負荷トレーニングを比較したメタ分析では、遅筋の肥大率に有意な差はなく両者同程度という報告もあります。
このことから、筋肥大を最大化するには基本は高負荷で速筋を狙いつつ、余裕があれば低負荷高レップや血流制限法などで遅筋にも刺激を与えるという多角的アプローチが有効と言えるでしょう。
筋肥大トレーニング例
基本は週2~3日の高強度レジスタンストレーニングです。
全身の主要筋群に対して、ベンチプレス(胸・腕)、デッドリフト(背中・脚)、スクワット(脚)などの複合種目を中心に据えます。
各種目3~4セット、6~12回で限界になる重量で行いましょう。
加えて、仕上げに軽めの重量で20回前後の高回数トレーニングやBFRトレーニングを取り入れると、遅筋繊維まで含めた筋肥大刺激を満遍なく与えることができます。
例えば腕のトレーニングでは、最初に重いダンベルカールで8回×3セット行った後、軽い負荷で30回程度のカールを追加する、といった方法です。これにより速筋・遅筋の両方に刺激を送り、筋肥大を最大化する狙いがあります。
持久力向上を目指すトレーニング(遅筋重視)
持久力(筋持久力や全身持久力)を高めたい場合、遅筋繊維を重視したトレーニングが重要です。遅筋は繰り返しの収縮に強く長時間働ける性質を持つため、持久力向上には長時間・反復的な運動で遅筋を鍛える必要があります。
具体的には、有酸素運動(エアロビクス運動)を中心に据えましょう。ジョギング、ランニング、サイクリング、水泳など一定強度で長く継続する運動は遅筋を効果的に鍛えます。
有酸素運動によって筋肉への酸素供給能力が高まり(遅筋周囲の毛細血管が発達し)、ミトコンドリアが増えていきます。
その結果、遅筋のエネルギー産生効率が上がり、疲労しにくい筋肉へと適応します。
例えば、週に3~5日、1回30分~1時間程度の有酸素運動を行う習慣をつければ、数か月で持久力向上を実感できるでしょう。運動強度は「ややきつい」と感じる程度(最大心拍数の60~80%程度)のペースを維持するのがポイントです。
筋トレで持久力を鍛える方法もあります。それは低負荷高レップのレジスタンストレーニングです。
具体的には、軽めの重量で20回以上反復できる運動を行い、筋肉が焼けつくような疲労感(乳酸が溜まる感じ)になるまで続けます。
こうしたトレーニングは主に遅筋線維を動員し、筋肉の乳酸耐性を高めて筋持久力を向上させます。例えば自重スクワットを1セット50回行う、軽いダンベルでのアームカールを30回×2セット行う、といった方法です。これらは筋肥大というより筋繊維の代謝的適応(疲労耐性向上)を狙ったものになります。
最新の研究では、インターバル訓練(高強度と低強度を交互に繰り返す運動)も持久力向上に非常に効果的であることが示されています。
特に高強度インターバル(HIIT)は短時間で心肺機能と筋持久力の両方を鍛えられる方法として注目されています。
ただし強度が高く疲労も大きいため、まずは基礎的な持久的運動で遅筋を鍛えてから取り入れると良いでしょう。
持久力向上トレーニング例
週3回の有酸素運動として、例えば月・水・金に30~45分のジョギングやバイクエルゴメーター(サイクリングマシン)を行います。火・木は筋持久力トレーニングの日として、自重エクササイズのサーキットトレーニング(腕立て伏せ、スクワット、腹筋などを各20~30回ずつ休みなく連続で行う)を組み込んでも良いでしょう。
徐々に負荷になれてきたら、金曜日のジョギングをHIIT形式のランニング(例:全力疾走30秒+軽いジョグ90秒を1セットとし、これを5~8セット繰り返す)に置き換えてみます。こうすることで遅筋主体の持久力だけでなく速筋のパワー持久力も鍛えられ、総合的なスタミナアップにつながります。
競技パフォーマンス向上のためのトレーニング
アスリートやスポーツ愛好家にとっては、単に筋肉を大きくする・持久力をつけるだけでなく、競技パフォーマンスを高めることが目標になります。競技力向上のトレーニングでは、自分の競技種目に合わせて速筋と遅筋の両方をバランス良く鍛える戦略が必要です。
まず、自分の競技が瞬発系か持久系かを考えてみましょう。
例えば100m走や砲丸投げ、ウエイトリフティングのような短時間で最大パワーを競う競技では速筋優位の能力が求められます。
一方、マラソンや長距離競泳、ロードサイクリングのような長時間にわたる持久戦では遅筋優位の能力がものをいいます。また、サッカーやバスケットボールのように両方の要素が重要なスポーツも多く存在します。
自分の競技の特性に応じて、速筋向上トレーニングと遅筋向上トレーニングを組み合わせましょう。
瞬発系パフォーマンスを伸ばしたい場合、高負荷・高強度のトレーニングで速筋を鍛えることが不可欠です。
具体的には先述のような重量トレーニングに加え、プライオメトリクストレーニング(ジャンプトレーニング)やスプリント反復練習など、爆発的パワーを高める種目を取り入れます。
例えば垂直跳びやボックスジャンプ、短距離ダッシュのインターバルなどです。これらは速筋線維の動員と神経系の適応を促し、瞬発力の向上につながります。
持久系パフォーマンスを伸ばしたい場合は、長時間の専門的持久トレーニングが中心になります。
マラソンランナーであれば週に一度のロングランや乳酸閾値走(ややきついペース走)を取り入れる、サイクリストであればロングライドやヒルクライム練習を行う、といった具合です。
これにより遅筋繊維の酸素利用能力が向上し、競技特性に合った持久力が強化されます。
またインターバルトレーニングも持久系競技者に有効です。競技ペースより速いインターバル走を繰り返すことで、遅筋・速筋の両方を刺激しつつ心肺持久力を高めることができます。
総合的な競技力向上には、速筋と遅筋のバランスが重要です。
多くのスポーツでは両タイプの筋繊維が協力してパフォーマンスを発揮します。
例えばサッカーでは瞬間的なスプリント(速筋)と90分走り切る持久力(遅筋)の両立が求められますし、格闘技では爆発的な打撃やタックル(速筋)とスタミナ(遅筋)の両方が必要です。
そのため、シーズンを通じた periodization(周期的計画)の中で、オフシーズンは筋力・瞬発力トレーニングで速筋を鍛え、シーズン中は持久的な練習で遅筋を鍛える、といったようにトレーニング内容を配分すると効果的です。
科学的にも、エリート選手の筋線維組成はその競技特性に適応していることが示されています。
長距離系のトップ選手ほど遅筋線維の割合が高く、短距離・パワー系のトップ選手ほど速筋線維の割合が高いことが報告されています。
これは遺伝的な要素もありますが、適切なトレーニングによってある程度その競技に有利な筋線維特性に「鍛え上げる」ことが可能であることを示唆しています。
つまり、持って生まれた筋線維の割合は変えられなくても(現時点の研究では遅筋が速筋に変わったりその逆が起こることは人間では確認されていません)、トレーニング次第で速筋・遅筋それぞれの能力を最大限に引き出すことができるのです。
競技力向上トレーニング例: 例えば陸上短距離選手の場合、週3日のウェイトトレーニング(高重量のスクワットやパワークリーン等で速筋強化)と週2~3日のスプリント練習を中心に据えつつ、週1日は軽めの持久走で基礎持久力も維持する、といったバランスを取ります。
一方でトライアスリートのような持久系競技者は、週5~6日の持久系トレーニング(ラン・バイク・スイムの長時間練習)に加えて、週1回程度の筋力トレーニングやインターバル走を行い、速筋の刺激も欠かさないようにします。自分の競技に応じて速筋デーと遅筋デーを作り、両輪を強化する意識が大切です。
まとめ
速筋繊維と遅筋繊維の違い、それぞれの見た目の特徴や役割、そして目的別のトレーニング方法について解説しました。
速筋は白く見える瞬発系の筋肉で、大きな力を発揮し筋肥大しやすい反面、疲れやすく加齢で衰えやすいという特徴がありました。
一方、遅筋は赤く見える持久系の筋肉で、長時間働き続ける持久力に優れ加齢にも強い反面、筋肥大しにくい性質がありました。
それぞれの筋繊維が得意とする役割に合わせて、トレーニングも速筋向きか遅筋向きかを意識することで、筋肥大や持久力アップといった目的に沿った効率的な成果が期待できます。
初心者の方はまず、自分が得たい効果(大きな筋肉が欲しいのか、長く動ける体力が欲しいのか)をはっきりさせ、上記のポイントを参考にトレーニングメニューを組んでみてください。
アスリートの方は、競技特性に応じて速筋・遅筋両面からアプローチすることで、競技パフォーマンスをさらに向上させるヒントになるでしょう。
最後に、安全かつ効果的に鍛えるためにオーバートレーニングに注意し、十分な休養と栄養を取ることもお忘れなく。速筋も遅筋も、休息中にこそ強く大きく適応していきます。それぞれの筋肉の個性を理解し、賢く鍛えて、理想の身体とパフォーマンスを手に入れましょう!
参考文献・出典:本記事の内容は最新のスポーツ科学研究や専門機関の情報に基づいています。