GLP-1ダイエット(メディカルダイエット)の効果・副作用・費用・メリット・デメリット
GLP-1ダイエットとは、もともと糖尿病治療薬として使用されてきたGLP-1受容体作動薬(インクレチン関連薬の一種)を肥満症の治療(減量目的)に応用するメディカルダイエット法です 。
GLP-1受容体作動薬はインスリン分泌を促進して血糖を下げる作用に加え、食欲を抑制して体重を減少させる効果を持つことが特徴です。
国内では2023年にセマグルチド製剤(商品名ウゴービ®皮下注)が肥満症治療薬として初めて承認され、2024年2月から保険処方が開始されました 。
しかし現時点(2025年)では、多くのケースで自費診療(保険適用外)によるGLP-1ダイエットが行われており、供給や適用条件にも制限があります 。以下では、その効果・副作用・費用・メリット・デメリットについて最新のエビデンスに基づき詳しく説明します。
効果 (体重減少効果・食欲抑制・血糖コントロール)
GLP-1受容体作動薬は強力な食欲抑制と体重減少効果を示します。もともと2型糖尿病治療薬として血糖降下に用いられてきましたが、血糖を下げるだけでなく食欲を抑制することで体重減少効果も期待できることが確認されています 。
具体的な臨床試験では、肥満患者に対し週1回注射のセマグルチド(GLP-1作動薬)2.4mgを68週間投与した結果、平均で初期体重の約14.9%(15.3kg)の減量が達成されました(プラセボ群は2.4%減) (Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity - PubMed)。試験参加者の約50%が15%以上の体重減少を達成しており、対照群(約5%)を大きく上回っています (Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity - PubMed)。
また毎日注射のリラグルチド3.0mg(GLP-1作動薬)でも56週間で平均8.4kgの減量が報告されており、プラセボ群(2.8kg減)との差は有意でした ( Liraglutide (Saxenda ®) as a Treatment for Obesity )
こうしたGLP-1作動薬による減量効果は 数%~二桁%台の体重減少 として臨床的に意義が大きく、従来の食事療法や運動だけでは得難い水準です (Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity - PubMed)。
作用機序としては、GLP-1作動薬が脳の満腹中枢に作用し食欲を低下させること、胃排出遅延により満腹感が持続しやすく食事量が自然に減ることが挙げられます。
そのため「空腹感に苦しまず無理なく食事量を減らせる」点が特徴で、適度な運動と組み合わせればより効果的に減量できます 。
さらに、GLP-1作動薬には元来の糖尿病治療効果により血糖コントロールを改善する利点もあります。肥満者への投与試験でも、HbA1c(ヘモグロビンA1c)など代謝指標の改善や、インスリン抵抗性の軽減が確認されています (Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity - PubMed)。実際、前糖尿病(境界型糖代謝)の被験者ではGLP-1作動薬投与により糖尿病への進展を大幅に抑制でき、新規糖尿病発症率がプラセボ群の1/8以下に低減したとの報告もあります (Another Agent for Obesity — Will This Time Be Different?)。
また2型糖尿病患者における心血管アウトカム試験では、リラグルチドなどのGLP-1作動薬投与により心筋梗塞・脳卒中など主要心血管イベントや心血管死の発生リスクが有意に低下しています (Liraglutide and Cardiovascular Outcomes in Type 2 Diabetes - PubMed)。
このようにGLP-1ダイエットは、単なる減量だけでなく血糖値の安定化や心血管リスク低減など健康面での付随効果も期待できる点が大きな特徴です (Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity - PubMed) (Liraglutide and Cardiovascular Outcomes in Type 2 Diabetes - PubMed)。
副作用(主な副作用と頻度、安全性上の注意点)
GLP-1ダイエットで使用する薬剤の主な副作用は消化器症状です。具体的には、胃部不快感、吐き気・嘔吐、下痢、便秘といった症状がよく見られます 。
これらの症状は治療開始初期に出現しやすいものの多くは一過性で軽度~中等度に留まり、継続するうちに改善することが報告されています (Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity - PubMed) ( Liraglutide (Saxenda ®) as a Treatment for Obesity )。実際、週1回セマグルチド投与の大規模試験でも、吐き気・下痢が最多の副作用でしたが通常は時間とともに軽減し、重症例は限られていました (Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity - PubMed)。ただし一部では耐え難い症状により中止に至るケースもあり、セマグルチド投与群の約4.5%が消化器副作用のため治療中止となったとの報告があります (Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity - PubMed)。
まれな重篤な副作用として、胆嚢炎(胆石を伴う胆のう障害)や膵炎、腸閉塞、胃不全麻痔(胃の運動麻痺)などが報告されています 。
いずれも頻度は高くありませんが、GLP-1作動薬との因果関係が示唆された例があり注意が必要です。
特に急な腹痛や嘔吐が続く場合は膵炎などの可能性もあるため、継続投与中の患者には症状出現時に医療機関を受診するよう指導されています。
なお、GLP-1作動薬自体はインスリン分泌を血糖値に依存して促進するため低血糖を単独で引き起こしにくい薬剤です。しかしダイエット目的で摂食量が極端に減少した場合や、糖尿病治療で使用中の他の降糖薬(インスリンやSU剤など)と併用している場合には低血糖が起こる可能性があります 。
実際に食事制限により低血糖を起こして意識消失や転倒などの事故につながった例も報告されています 。
したがってGLP-1ダイエットを行う際も、過度の絶食は避けて適切な栄養を摂ること、併用薬がある場合は医師の指導のもと調整することが重要です。
現時点で日本人を対象とした長期安全性データは十分ではない点にも注意が必要です 。GLP-1作動薬は2023年に肥満症への適応が国内承認されたものの、発売当初は流通量や使用施設が限られており、それ以前は全て適応外使用(自費診療)でした。そのため日本人肥満患者における有効性・安全性エビデンスは蓄積途上であり、特に自費で入手した薬剤を自己判断で使用するのは避けるべきです。
安全に治療を受けるため、必ず専門の医師の診察・管理のもとで適切な用法用量を守るようにしてください。
費用(日本国内クリニックにおける価格帯)
GLP-1ダイエットの費用は基本的に自費診療(保険適用外)となり、月額数万円程度と高額になるのが一般的です。
費用は使用する薬剤の種類や用量、クリニック毎の価格設定によって異なります。以下に主なGLP-1関連薬の自費診療における価格例を示します(※税込価格)。なお用量や購入本数によって1か月あたりの費用は増減し得ますので、表は一例とお考えください
製剤名(一般名) | 用法・頻度 | 自費価格の目安 |
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オゼンピック(セマグルチド注射)2.0mgペン | 週1回自己注射(最大1.0mg/週) | ¥19,800(1本あたり) |
サクセンダ(リラグルチド注射)1本 | 毎日自己注射(最大3.0mg/日) | ¥15,180(1本あたり) |
ビクトーザ(リラグルチド注射)1本 | 毎日自己注射(最大0.9mg/日) | ¥17,380(1本あたり) |
リベルサス(経口セマグルチド)3mg | 毎日内服(3mg/日) | ¥4,510(30日分) |
リベルサス 7mg | 毎日内服(7mg/日) | ¥14,080(30日分) |
リベルサス 14mg | 毎日内服(14mg/日) | ¥17,930(30日分) |
※上記は一例です。例えばサクセンダは1本あたりの価格ですが、最大量3.0mgで毎日使用すると1か月に約5本必要になるため月あたり約75,000円前後と高額になります。反対に低用量であれば1本で1か月近く持つ場合もあります。処方を受けるクリニックでの指示用量および料金体系を必ず確認してください。
クリニックによって料金設定には大きな差があり、初回割引やコース設定なども様々です。
例えば比較的安価なクリニックでは月1か月あたり2~3万円台(0.6~0.9mg/日の少量使用時)で提供する所もありますが、他方では月数十万円に及ぶ高額コースを設定しているケースもあります。
下表は2022年時点で複数クリニックのリラグルチド製剤使用時の月額費用を比較した例で、0.6mg~1.2mg/日の使用量ごとにクリニック間で数倍の費用差があることが分かります
クリニック名(例) | 月額費用(1日0.6mgの場合) | 月額費用(1日1.2mgの場合) |
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Aクリニック(初回割引価格) | ¥19,800 | ¥39,600 |
Bクリニック(通常価格) | ¥33,000 | ¥66,000 |
Cクリニック(大手美容系) | ¥49,800 | ¥100,000 |
Dクリニック(6ヶ月コース平均) | ¥99,000 | ¥198,000 |
このように自費診療では費用負担が大きいため、継続治療には経済的コストも考慮する必要があります。なお2024年より保険診療で使用可能となったウゴービ®(セマグルチド2.4mg週1回)では、3割負担の場合の自己負担額は月約12,000~13,000円と見積もられています。
ただし保険適用の対象は「BMI35以上の高度肥満症」など一定の条件を満たす場合に限られるため、多くの人にとっては依然として自由診療でのGLP-1治療が現実的な選択となります。
メリット(効果以外の健康上の利点・持続性など)
GLP-1ダイエットには以下のようなメリット(利点)が考えられます。
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高い減量効果: 他の薬剤や従来のダイエット法と比べても平均して10~15%もの大幅な体重減少が期待できます (Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity - PubMed)。減量幅が大きいほど肥満に伴う合併症リスクも低減するため、医学的に大きな意義があります。実際、セマグルチド投与群では約半数が15%以上減量し、3人に1人以上が20%近い減量を達成したとの報告もあります (Two-year effects of semaglutide in adults with overweight or obesity: the STEP 5 trial | Nature Medicine)。
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無理のない食欲抑制: GLP-1の作用で空腹感が軽減し、少量の食事でも満腹感を得やすくなるため、厳しい食事制限を「意志力だけで耐える」必要がありません 。適切なカロリー減と満腹感の両立によりストレスなく継続できるダイエットが可能となり、行動療法の成功率も高まります。実際、薬剤を併用した群の方が行動療法のみより減量効果が高まると報告されています 。
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血糖コントロールの改善と糖尿病予防: GLP-1作動薬はもともと糖尿病治療薬であり、肥満者に使用した場合も空腹時血糖や食後血糖の改善が得られます (Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity - PubMed)。減量そのものの効果も相まってインスリン感受性が向上し、耐糖能が改善します。その結果、糖尿病の新規発症リスクが大きく低減し (Another Agent for Obesity — Will This Time Be Different?)、前糖尿病の多くが正常型に戻る(ある報告ではセマグルチド群の80%が正常血糖域へ改善 (Two-year effects of semaglutide in adults with overweight or obesity: the STEP 5 trial | Nature Medicine))など予防的観点からもメリットがあります。
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心血管・代謝リスクの低減: GLP-1ダイエットにより血圧や血中脂質(コレステロール、中性脂肪)などの改善が報告されています (Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity - PubMed)。体重減少自体の効果に加え、GLP-1作動薬の作用で内臓脂肪減少や抗動脈硬化効果も示唆されており、総合的に心血管リスクプロファイルが向上します。さらに糖尿病合併例では、GLP-1作動薬の使用により心筋梗塞・脳卒中などの重大イベントや心血管死亡率の低下が証明されており (Liraglutide and Cardiovascular Outcomes in Type 2 Diabetes - PubMed)、心血管疾患予防の観点からも有益と考えられます。
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生活の質(QOL)向上: 減量に伴い関節への負担軽減や睡眠時無呼吸の改善など日常生活動作が向上するほか、GLP-1作動薬投与群では身体的機能の自己評価スコアが有意に改善したとの報告があります (Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity - PubMed)。また肥満関連の合併症(高血圧、脂質異常症、脂肪肝、月経不順など)の改善が見込まれる点も健康上のメリットです ( Liraglutide (Saxenda ®) as a Treatment for Obesity )。これらにより精神的な自己効力感が高まり、「ダイエット成功による自信」や生活習慣の好転といったポジティブな循環が生まれる可能性があります。
以上のように、GLP-1ダイエットは単なる減量効果だけでなく、代謝健康の改善や生活習慣病予防、QOL向上につながる包括的なメリットがあります。ただし恩恵を最大化するには、薬物療法に加えて適切な食事・運動習慣の継続が重要であり。
デメリット(副作用以外の懸念点や課題)
一方、GLP-1ダイエットには以下のようなデメリットや注意すべき課題も存在します。
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自己注射の手間と抵抗感: 多くのGLP-1製剤は注射薬のため、自分で定期的に注射を行う必要があります。週1回タイプ(オゼンピック等)もありますが、毎日針を刺す製剤(サクセンダ等)もあり、注射に抵抗がある方には心理的ハードルとなります。 実際、「自己注射に抵抗がある方向けに経口薬(リベルサス)を用意している」クリニックもあるほどです。注射方法の習得や針・薬剤の管理(冷蔵保存など)にも手間がかかり、煩雑さをデメリットと感じる患者さんもいます。
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継続コストの負担: 前述の通り保険適用外の場合、治療を続ける限り毎月数万円の費用がかかります。
減量目標に達するまで数か月~半年以上かかる場合が多く、長期的な経済負担は無視できません。
また目標達成後も体重維持のために治療を継続する場合、そのコストが累積していきます(後述のリバウンド対策参照)。費用面はGLP-1ダイエット最大の障壁の一つであり、特に自費診療の場合は事前によく検討する必要があります。
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中止時のリバウンドリスク: GLP-1作動薬は服用・注射をやめると効果が消失するため、治療中止後に食欲が元に戻りリバウンド(体重再増加)しやすい点が指摘されています (GIP/GLP-1受容体作動薬を中止したら減らした体重の多くが1年でリバウンド 投与を継続するとさらなる減量効果 糖尿病のない肥満患者 | 糖尿病リソースガイド)。実際、肥満患者に対するある試験ではGLP-1/GIP二重作動薬(チルゼパチド)を中止した群で1年以内に減少体重の約14%が再増加したとの報告があります。
逆に治療を継続した群ではさらに減量が進み維持できたため、減量効果を持続するには長期的な投与継続が望ましいことになります。しかし長期間の薬剤継続は上述の費用負担や未知のリスクも伴うため、目標体重に到達した後の治療方針(減薬や維持療法への移行など)は慎重に計画する必要があります。
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国内における適応・データの限界: 2023年にウゴービ®が承認されたとはいえ、日本人対象の十分なエビデンスが蓄積しているとは言えない状況です 。
適応上も、BMIや合併症の条件を満たす「肥満症」の診断がなければ保険適用にならず、自費で使う場合も医師の裁量となります。市販直後は供給量に限りがあり保険医療機関でも積極的な処方は難しいとの指摘もあります。
したがって長期の有効性・安全性(特に日本人におけるデータ)が不確実である点はリスクと言えます。将来的に症例蓄積により適切なガイドライン整備が期待されますが、現段階では未知のリスクに留意しながら慎重に適応を判断する必要があります。
以上のデメリットから、GLP-1ダイエットは「魔法の痩せ薬」というより継続的な医療管理を要する肥満治療と位置付けるのが適切です 。
治療を開始する際は、副作用だけでなく継続の負担や中止後の対応も含めて医師と十分相談し、メリットとデメリットを天秤にかけた上で意思決定することが重要です。その上で適切に用いれば、GLP-1ダイエットは減量に行き詰った肥満患者さんにとって強力な助けとなり得る新たな選択肢と言えるでしょう。
参考文献・出典: 効果に関する臨床試験データ (Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity - PubMed) ( Liraglutide (Saxenda ®) as a Treatment for Obesity )、副作用・安全性に関する報告 (「やせ薬」と言われるGLP-1受容体作動薬のリスク|西早稲田ライフケアクリニック|新宿区高田馬場の糖尿病内科・内科) (Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity - PubMed)、国内外の糖尿病・肥満症治療ガイドライン、公的機関の発表資料および製薬企業提供情報 ([PDF] 週 1 回皮下投与の GLP-1 受容体作動薬「ウゴービ® 皮下注」) (健康保険適用のGLP-1受容体作動薬!ウゴービは痩せる? – GLP-1ランド)